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顔にかかったソレを拭いながら、響生はそれをぺろりと嘗めた。
「塩?」
その2文字が言い終わらないうちに、
「悪霊退散!悪霊退散!悪霊退散っ!!」
次々に塩の追撃が襲ってくる。
「ちょ、たんま!たんまたんま!九条さん、待ってって!」
やっと小さな肩を押さえると、やっと攻撃は止まった。
「九条さん!?……私が九条さんなわけないじゃないですか!私は橘です!橘琴葉!同じクラスでしょう!!」
彼女はよほど勘違いされるのが嫌だったのか、顔を真っ赤にして否定した。
「え、違うの?まあいいや。それよりあんた、さっきから何してんの?」
塩を浴びせられた目の痛さと肌の痒さにだんだん腹が立ってきた。
(なんだ?この女。俺をからかおうとしてるのか?)
しかし彼女は大真面目な顔で、
「ああ、ダメだ。追い払っても追い払っても、集まってくる……!」
と宙を睨みながら悔しそうに唇を噛んだ。
(どうやらなにか見えてらっしゃる……。ヤバい。こいつ、ガチな奴だ……!)
響生は身の危険を感じ、彼女から数歩離れた。
「かくなる上は……!」
彼女はまたもや胸元から何かを取り出した。
今度こそ白いおっぱい……では勿論なく、白い紙だった。
「―――うわ。ヤバいヤバいヤバい!!」
響生はそれを見るなり踵を返した。
「ああ!ちょっと!」
彼女の焦った声が追いかけてくる。
しかし響生は石段を3段飛ばしで駆け下りると、田んぼ道を走り出した。
彼女が持っていた白い紙。
シンプルではあったが、あれは確かに人の形をしていた。
(人形?冗談じゃねえ!俺は小さいときから呪われてるだの憑いてるだの言われ育って、オカルトとかマジでダメなんだよっ!!)
「ん?待てよ……」
そこで彼女の言葉を思い出した。
『――あなた、憑いてますよ』
『めっちゃ憑いてるんですよ!?私が出会った男たちの中で一番!!』
「くっそ!このことか……!田舎こええええ!」
響生はますます左右の腕を振り上げると、全速力で逃げ出した。
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