左耳のピアス

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――トントン―― 卒業式が終わり、約束通り社会科室のドアをノックする。 「はい」 「先生」 「どうぞ」  さっきまで体育館で盗み見していたはずのスーツ姿を間近で見て、胸がトクンと跳ねる。  正装している先生はそこらへんのイケメンなんかに負けないくらい格好良くて、真っ直ぐに見れないほどだ。 「渡辺、卒業おめでとう」 「うん、ありがとう。先生のおかげでここまで来れたんだ。感謝してる」 「俺の方こそ、お前と過ごした時間は貴重だったよ」 「そう言ってもらえるだけで十分だよ。俺、先生の中に少しでも残りたかったから」 「それなら、間違いなく叶ってるな」 「そっか。良かった」  ダメだ……泣かないって決めていたのに……  ちゃんと伝えるって決めていたのに……  先生を目の前にしたら、好きが溢れ過ぎて言葉なんて出てこない。 「これ、卒業祝いだ。受け取れ」 「何?」 「いいから、開けてみろ」  近づいてきた先生が俺の手の中に小さな箱を手渡してきた。  言われるままゆっくりと箱を開けると、 「これって……」 「お揃いだ」 「何で……?」  箱の中には片方だけのシルバーピアスが入っていて、先生が自分の髪を上げて対のピアスを見せてくれる。 「本当だ……お揃いじゃん」 「渡辺、俺はお前のことを忘れない。お前のおかげでやっと前に進むことが出来たから」 「そんなこと言って……俺の気持ちは……」 「ちゃんとわかってるつもりだけど?」 「えっ?」  何が何だかわからなくて呆気に取られていると、「渡辺……」と先生が俺の名前を呼ぶ。  顔を上げて先生を見ると、先生の目にはしっかりと俺が映っていた。 「先生……俺、先生が好きだ……」 「だから、知ってるって」 「ずっと一緒にいたいんだ」 「わかってる。俺もお前が好きだから……」  そう言って箱の中からピアスを取り出すと、俺の左耳に付けてくれた。  そして先生は笑顔で言った。  あいつを思い出にしてくれて、ありがとう……  その笑顔が、今まで見た中で一番キラキラしていて、俺もつられるように笑った。
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