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局部が芋虫になるにあたり、事前に目立った兆候があったわけでは、ない。
とある明け方のことだった。
下腹部に何やら不穏な気配を感じ、目が覚めた。
寝ぼけたぼくは、半分瞼を閉じたままトイレに立った。
パジャマのズボンの前立てを開き、いつもの手順で引っ張り出す。
触り慣れないものが指に触れた。
竿の部分に、ぽこっと小さな出っ張りがある。
それも、ひとつではない。できもののようだった。
できものがたくさん。こんな場所に。
もしや、性病?
閉じていた瞼がぱっちり開いた。
「うそだろ。いつでもどこでも、ゴムは着ける派だぞ」
速攻でズボンとパンツを下ろし、局部を捧げ持ってつぶさに眺める。
竿の根元あたりに、イボ状の突起が六つある。
局部の皮膚と同じ色合い。大きさは小豆粒くらいだ。横に二列、縦に三列。できものにしては、妙に規則正しく整列している。
イボ状の突起の上のほうには、形の違う突起があった。細くて先が尖っている。数はイボ状のと同じ、横二列、縦三列の六つ。
なんだろう、これ。
既視感がある。
そうだ。
あれを、腹の側から見たときみたいな感じなんだ。
「……芋虫」
ぼくは思わず己のものから手を離した。
手を離した後も、竿は直角の角度を保っている。
この状況下で、朝勃ちでもあるまい。
見つめるぼくの眼下で、亀頭がひとりでにゆっくり持ち上がった。
尿道口が開いては閉じ、開いては閉じる。
そんなことしようなんて、ぼくは少しも思っていないのに。
第一、開閉しているという感覚そのものがないんだ。
雁首の両脇にはひとつずつ、見おぼえのないほくろができている。
……違う。
ほくろじゃない。目だ。
小さくて、つぶらで、真っ黒な。
昆虫の。芋虫の、目。
「うそだろ……?」
顔から一気に血の気が引いた。
ぼくは下半身丸出しでその場にくずおれた。
自分の頭が床にあたる、ごつん、という音が遠くに聞こえた。
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