第一章 地下アイドルの幽霊

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「まあ、立ち話をずっとするのも、何だかね……。良いよ、上がっても。どうせ、マネージャーもそれを見越して呼んだんだろう? ってか、幽霊専門の探偵? が居るなんて聞いたことないし……。本当にちゃんと解決してくれるんだろうね? 何だか話を聞いていると、色々話を聞いただけで何もしないような気がするけれど……」  分かっているじゃないか。  ってか、神原、もう相手に気付かれる程そういうオーラをプンプン出しているってことになるのだろうか……。だとしたら、それはそれで嫌だなあ。ますます仕事をしなくなるじゃないか。 「じゃあ、お邪魔するよ。ちょうどそこにテーブルもあるし、そこで膝をつき合わせて話をしようじゃないか」  そうしてぼく達は正式に楽屋にお邪魔することとなった。  因みに樋口が無言になっているのは、推しの地下アイドルを目の当たりにしているからか、何故か人見知りを発動しているためだ。お前、ここで人見知りを発動している場合じゃないだろう、と言いたいところだが、これが案外普通の反応なんだろうな、多分。  正式にお邪魔することが出来たとしても、それはあくまでも複数プロセスがあるうちの第一段階をクリアしただけに過ぎず、プロセスをクリアしていかない限り、正しい結末を導き出すことは出来ないし、寧ろ不可能に近い。いざそれを決定したからって、答えに最短のルートであるかどうかと言われると、難しいところだよな。  ともあれ、先ずは第一段階を突破したことを素直に喜ぶしかあるまい。喜んだところでそれが正解であるかどうかは、第三者が決めることでぼく達が決められるようなことではなかったりすることが殆どなのだけれどね。 「ええと、先ずは何処から話したら良いのやら……」 「良いよ、ゆっくりと話してくれればそれで良い。長々と話してくれても良い。取り留めのない話だって構わない――整理しないぐらいがちょうど良かったりするからね。言っている意味が分かるかな?」 「分かるよ……。というかさっきから馬鹿にしているのか何だか知らないけれど、言い方が酷いと思わない? ちょっとは遠慮して言ってくれても良いのにさ……」  申し訳ないけれど、それがこの男――神原の日常だ。スタンダードだ。だからこそってことでもないけれど、話していくうちに自覚するようになる――自分ってどうしてこんな人間にくだらない話をしているんだろう、ってことにね。
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