第一章 地下アイドルの幽霊

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 まあ、最初は皆そう言うんだよ、はっきり言ってね。好き嫌いがあるんだ、神原だろうがぼくみたいな人間だろうが、変わり者ってものは、やっぱり誰でも愛されるような振る舞いを絶対にしたくないし――ぼくは絶対にしたくない、自分の価値を下げたくないし――となると、人によってははまったらずっと喋っても良いぐらいってなる人も居るし、全く歯車が噛み合わなくて二度と話したくない、なんて人も居る。まあ、人類なんて八十億人ぐらい居るし、それぐらいは居てもおかしくはないもんな。 「とにかく話をしてくれないか。先ずはそれからだ……、こいつのことを疑う気持ちは分かる。というか、それが普通だよ、悲しいけれどね」 「分かったよ。取り敢えず話をすれば良いんでしょう? それをどう解釈するかはそっちの勝手だし、それによってわたしがデメリットになることはないもんね。解決しなかったら、それがデメリットになるのかもしれないけれど、そうしたらわたしは外に出なければ良いんだし」  おい、それで良いのか?  幾ら何でも、外には出た方が良いと思うけれど。幾ら全てが宅配とネット通販で何とかなる世の中になってしまったからとはいえ、だ。 「外に出なくても良い、というのはちょっと困るね。幾ら何でも、サンシャインズは地下アイドルとしてライブ活動を一番の収益源としている以上は、少なくとも楽屋の外には出てもらわないと困るんだよ。それとも、ここでYouTube活動でもするつもりかい?」  幽霊が嫌いだから、YouTubeを始めた地下アイドル――想像すると、ちょっとは面白そうだ。最初は少し閲覧数が増えるんじゃないか? 元々見てくれていたファンに、面白さを求めて新規が少しは増えてくれるかもしれない。尤も、その後に定着してくれるかどうかは、実力が物を言うのだろうけれどね。 「YouTube活動か! それも悪くないよね。ずっと新人って言い続けて五年ぐらい活動しても良いよね」  何かそういう配信者居なかったっけ――三ヶ月経過したらちょっと小っ恥ずかしくなってきて、一年経過したら同僚にネタにされて、気付けば鉄板のネタになって五年経過した……っていう奴。あれもあれでどうかと思ったけれど、まあ、ファンに愛されているし、あいつまだ新人って言っているんだぜってネタになっている以上覚えられているということなのだから、それはそれで良いのかもしれないけれどね。
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