第一章 地下アイドルの幽霊

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「巻き返せるか巻き返せないかは、僕ちゃんが決めることだよ。それ以上でもそれ以下でもない、そういったものを勝手に決めることが、僕ちゃんのやり方だってことは……、たーくんが一番分かっていそうなものだけれどね?」  何年の付き合いだと思っている。  そもそも自分が決めることだとしても、社会からの一般的な評価も忘れてはならない。それがあるのとないのとでは大きく違う。結局、その社会的評価に応じて社会での立ち振る舞いが変わってしまうのだから、自己評価も程々にするべきだと思う。 「……ええと、幽霊の話だけれど」  そうだった。  いつまでも意味のない話を延々と続けていることは、あまりにも無価値だ。 「幽霊は、何処から現れた?」 「……通路の奥にある、古いトイレがあるのだけれど」 「ああ、あの劇場が出来た当初があった、というトイレだろう? でも、今は誰も使っていなかったはずだけれど、マリサは使っていたのか?」 「使うつもりはなかったし、使うはずもなかったのだけれど……、声がしたの」 「声?」 「そう。……何というか、悲しい声が……」  悲しい声、か。  しかし、話を聞いた限りだと、それから楽屋から出てこられずライブが中止になるような様子にはならないような気がするのだけれどな……。 「それでその声を聞いて、どうした? まさか気になって、その古いトイレとやらに行ったのか?」 「ええ、その通りよ……。古いトイレだったから、当然怖かった。マネちゃんなら分かるけれど、あのトイレ……どうしてあんなに古臭いんだと思う?」 「そりゃあ、この劇場がリニューアルした結果、出来上がった当初の姿をそのまま残しているからだろう。どれぐらい前だったかは覚えていないけれど……」 「そのトイレのことを事細かく説明してもらう必要は、今はないな。というか、聞く気もないし興味もないね。だから、幽霊を見た事象だけを詳細に説明してくれれば良い。それから、僕ちゃんが判別していく」 「……言いたいことは分かるけれどね、神原。きみはいつまでも余韻というか、余白というか、そういったものを本当に大事にしないよね」 「誰かと思えば樋口くんか。いつからそこに居た?」  いや、最初から居たし。
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