第一章 地下アイドルの幽霊

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 ぼくと一緒に――主語の概念から言えば樋口がメインになるけれど――サンシャインズのライブを見に来ていたのだけれどね。そうでなければ、ぼくはここの幽霊の存在を知らなかったし、お前にそれを連絡することもなかった。分かるか? 「いや、そんなこと言われてもね。僕ちゃんは幽霊に強い興味を持っているだけだ。裏を返せば――」 「――幽霊以外には一切興味を持たない、だろ? もうその自己紹介にも似た説明、一体何回聞いたんだろうな? もう数え切れないぐらい聞いた気がするよ」  色々昔話をしたい気持ちもあるけれど、そんなことを話していたら何話かかるか分かったものではないので、割愛させてもらう。 「そうそう。分かっているじゃないか、たーくん。そういうのを最初から説明出来るようにしたいところだけれど、それをいちいち説明するのが面倒なんだよなあ……。どうすれば良いのかねえ? 名刺にそういうのを書くスペースなんてないし、どう説明すりゃ良いのか分からないし……」 「それこそYouTubeでも活用すりゃあ良いじゃないかよ。動画とかのリンクをQRコードにして、名刺の何処かにでも貼り付けちまえば良いじゃないか」 「動画って、何の動画を?」  そりゃあ、お前が自己紹介する動画だよ。  何分の動画になるのか分からないけれどな。  流石に一時間級の動画にはなりゃしないだろう? 「YouTubeって何分の動画が投稿出来るんだっけね?」 「……それ、どういう趣旨で訊いているんだ? 場合によっては、全力で阻止しなければならないような気がするのだけれど」 「あの……、幽霊の話を、そろそろしても良いですか」  あ、本題から結構逸れていた。これ以上逸れると軌道修正がなかなか難しくなってしまうだろう。そう考えると、寧ろこのタイミングでの軌道修正はグッジョブといったところだ。だってここで軌道修正出来なければ永遠に話が終わらないし、建設的な議論をすることも不可能だったから。 「ああ、そうだったね。してもらえるかな? ええと、何処まで話したんだっけかな……」 「確か、古いトイレから声がした、ってことまで聞いたはずだけれど」  樋口はきちんと話を覚えていた。こういうとき常識人が一人でも居ると楽だよな。別にぼくも話の内容を忘れていたとかではなく。
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