第一章 地下アイドルの幽霊

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「そうそう。古いトイレ……、そこに入ったら声がどんどん大きくなっていって、だからわたしも気になっちゃって……」  気になって、と言われてもな。  結局、幽霊だったから良かった――で良いのかは置いておくが――として、仮に不審者だったらどうするつもりだったんだ? 例えばサンシャインズを狙う不審者が、劇場の施設内部に非常に詳しくて、人通りが少ない古いトイレの存在も把握していたとしたら――。 「……面白い仮説だね。けれども、そんなことを考えているのはきみみたいな異常者ぐらいじゃないのかい?」 「誰が異常者だ。それを言うならお前の方が十二分に異常者だろうが。いや、寧ろ社会不適合者と言っても差し支えないだろうし……」 「社会不適合者……ねえ。それは否定しないけれど、一応友人なんだから、面と向かって言わないで欲しいものだね……。それとも、僕ちゃんはそう思っているだけで、たーくんはそう思っていないのか? だとしたら、自分だけはしゃいでいるみたいでえらい滑稽じゃないか」 「そんなこと言われてもだね……。お前が社会不適合者なのは事実みたいなもんだろ、ぼくが事務所に行かない日、何をしている?」 「今はインターネットというものが十二分に発達しているからね。核弾頭から今夜のおかずまでインターネットで揃う時代になっているんだよ」  流石に核弾頭は言い過ぎだろ――そんなものがインターネットで手に入ったら、おもちゃ感覚で核弾頭を落とす悪魔のような時代の幕開けだぞ。そうなったら、数日後に人類は滅亡しているかもしれないけれどな。  ただ、インターネットの便利さは凄まじいものがある。人間が外に出なくても、どんなものでも手に入る世の中だ。食べ物が欲しければ出前サイトで注文すれば良いし、本が読みたければ電子書籍を購入するか通販サイトで購入して届けてもらえれば良いし、映画が見たければ月額型動画サイトでいつでも好きなときに見ることが出来るのだし。  しかし、インターネットというのは、ある意味で麻薬のようなものだとも思う。便利であることは間違いない。けれどもその便利さを頼ってしまってずっと使い続けてしまうと――インターネットが使えない時に、不便であることを自覚し、怒りを募らせてしまうか、或いはインターネットが使えないのなら使えるまで放置すれば良い、と思うようになり、やがて思考が停止する現実が待ち構えている。
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