第一章 地下アイドルの幽霊

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 昔、スマートフォンの世界的流行によって、とある学者が人類の思考力が奪われた原因の一つである――などと語ったことがある。それは間違いないのだろうけれど、しかしそれは一面を語っただけに過ぎない。正しいことでもあるが、間違ったことでもある――それがどうであれ、スマートフォンの出現によって常にスマートフォンを見るだけで、本来の人間の行動が著しく阻害されるような状態が常態的になってしまっている、とすればスマートフォンの功罪も分かってくる。  しかし、じゃあスマートフォンは悪だから二度とスマートフォンを使いません、排除しましょう――なんて動きには絶対にならない。何故なら、それほどまでにスマートフォンが人間の生活に溶け込んでしまっていて、今やなくてはならない存在に昇華してしまっているからだ。 「……社会不適合者かどうかはさておき、話を脱線し過ぎて元々の話がどんな話だったか、すっかり忘れてしまってはいないだろうね? その古いトイレに行ったきみは、一体そこで何を見た?」  神原は強引に軌道修正をする。確かに今は話の内容が知りたかったそれとは乖離してしまっていう。もう独立して話をした方が良いかもしれないとすら思うぐらいだ。 「古いトイレでは……、ずっと聞こえていたその声がはっきりと意味が分かるようになっていたの。今思うと、その幽霊はわたしを呼んでいたのかもしれない。わたしじゃなくても、別の誰かでも良かったのかもしれないけれどね」 「他の誰かを?」  つまりその幽霊は――マリサでなくても良かった、と? だとしたら厄介な悪霊でもそのトイレに居たのだろうかね。まあ、それで良く何もせずに戻ってくることが出来たのだと思う。  悪霊と行動を共にしていたのなら、長命になることは有り得ない。だからこそ、悪霊とは出会わないようにする、悪霊に取り憑かれた人間は早急に除霊をする、などといった特別処置が為されることが非常に多い――ということだ。 「あのトイレは、個室が三つあるのだけれど、一番入り口から遠いところにある個室から、ぶつぶつと声が聞こえていたの……。何を言っているのかはあまりにも小さくて分からなかったのだけど、もしかしたら呪詛を呟き続けているだけなのかもしれないし、或いはそうではないのかもしれない。……今となっては、もう証明しようがないのだけれど」
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