第一章 地下アイドルの幽霊

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「しかし、益々良くその幽霊と対面出来たな――いや、馬鹿にしている訳ではなく謙遜している程でもないということを言いたいだけでね。聞いている話だと、明らかに悪霊とまでは行かずとも、関わらない方が良いと判断するのが自然ではないのかね」 「それは分かるけれど、でも、興味が勝ったというか……」  興味が勝るからって何でもやっていたら、きっと何時か痛い目に遭いそうな気がするぞ。絶対に気をつけた方が良いと思うし、マネージャー辺りがきちんと教育もした方が良いだろう。 「マリサはそういうところがあるからな……。おれだってきちんと指導しているところはあるけれど、一応長所は伸ばすというのがうちのメリットではあるし、苦しいところではある」  それ、メリットって言えるのか?  解決が難しいものについて匙を投げているだけ――と言われてもしょうがないような、そんな感じがしてならないのだけれど。 「話を戻すけれど、古いトイレから声がして……どうしたんだ? まさか、その声がする方向に行ったんじゃないだろうな」 「え?」  そういう反応をするってことは、行ったんだな。それにしても、幾ら何でも度胸がある――その一言で片付けて良いのかどうかは分からないけれど、精神的には強いと思う。というか、それで幽霊を見たというのだから、もしかしたら悪霊という一言で片付けて良いのかは、正直分からないのかもしれない。  マリサの話は続いているが、最初から今までずっと茶々が入ったり脇道に逸れたりしているので、なかなか結論まで辿り着かない。話だけで結構な時間が掛かっていそうな気がする。別にぼくは後に予定が続いていないし、問題はないのだけれどね。樋口もどうせそうだろう、ライブが中止になったからDVDを見るなんて言っていたぐらいだし。 「……幽霊を見たのは、もう少し先か?」 「そうなるかな……。でも、もう少しでゴールだよ。最終カーブをそろそろ曲がるか曲がらないかぐらいのところ」  いや、それなりにまだ残っているじゃねえか。お互いに随分と話をしてきたつもりだと思っていたけれど、まだまだスタミナを残しておかないとこっちがへばってしまいそうだ。
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