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「鍵が……掛かっている? いや、それとも扉自体の立て付けが悪くなっていて開けることが叶わないのか……」
「いや、多分鍵が掛かっているね、これ。立て付けが悪いだけなら、力さえ掛けてしまえば開いてしまうはずだ。けれども、力をどちらに向けても開くこともなければ扉が動くこともない――となれば、答えはたった一つだけ導き出せる。鍵が掛かっている、ということにね」
「鍵が掛かっている……なら、どうしてさっき個室に入ることが出来た?」
「いや――わたし、一度も個室に入れたなんて言っていないような気がするけれど……。個室を見に行ったけれど、今と同じように鍵が閉まっていたんだよ。……だから、わたしもこの中は見ていない」
「だったら、何故幽霊を見た?」
「見た……というより、ずっと声が響いていたんだ。聞こえていなかった?」
いや、聞こえていなかったけれど――そんな声していたかな?
「声は聞いていないけれど、どんな声?」
「覚えていないわよ、そんなの。恐怖心が勝っちゃって、覚えていないの。ただぶつぶつと、こっちを呪おうとしているのか分からないけれど、これを聞いてしまったら本当に死んでしまうような気がする……。そう思って、わたしは楽屋から出ようとはしなかったの。何故なら遠ざかれば遠ざかる程、その声は小さくなっていったから」
「つまり、直接幽霊の身体そのものは見ていない、と? 幽霊ではないかという声を聞いただけ?」
神原が呆れたような表情で、状況を確認する。
幾ら幽霊の可能性が薄れたからって、あからさまに手を抜くの止めて貰えないかな。
「……ええ、まあ、そういうことになるんですけれど……。もしかして、駄目でしたか……?」
「駄目ってことではないけれど、ちょっと興ざめかな。てっきり現物を目の当たりにしたからそういう発言をしていたのかとばかり思っていたからね。けれども、今思うとそれも当たり前だったかねえ。だって、きみから感じないから」
「感じる? 何を?」
「霊気」
「霊気?」
「要するに幽霊のオーラみたいなものだよ。一度幽霊に出会った人間というのは、暫くはそれが纏わり付く。纏わり付くから、幽霊が近づきやすくなる。そういう特性を利用して、僕ちゃんみたいな存在が探偵として活動している、って訳。何故なら、僕ちゃん自身が――幽霊にとっては格好の餌って訳だからね」
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