第一章 地下アイドルの幽霊

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 霊気――ねえ。その説明をしたところで、きっと理解してくれる人間は多くないと思う。何故ならオカルトの知識を持ち合わせている人間がそう多くなく、霊気がどうのこうの言われたってさっぱり分からないのだろう。  ぼくだって最初は分からなかった。けれども、何度も経験を積んでいくうちに霊気が何であるかということを理解していった。無論、それだけではない。心霊探偵がどういう仕事をしていて、幽霊が何を知っているかということも知らなくてはならなかった――ぼくは探偵として活動していく訳ではないのだけれどね。 「一言だけ言わせてもらうと……、この幽霊未遂は未遂ではない可能性が非常に高いだろう、遺憾ではあるが」 「何が遺憾なんだよ、心霊探偵はそういうのを導き出して解決させるのが仕事だろ……。それとも、とうとう職務放棄をしたくなったか?」 「そういうことを言いたいんじゃないんだよ、たーくん。僕ちゃんが言いたいのは、もっと別のカテゴリだ」  別のカテゴリ?  それを考える、何か糸口でもあっただろうか。 「これはあくまでも可能性の一つでしかないが……。しかし、可能性として考えるには十分だ。尤も、探偵というのは微かな可能性であってもきちんと考慮しなければならない。例えば、ビルからの転落が原因かもしれないという事件があったとしても、一パーセントぐらいは誰かがそこに連れて行って転落死を偽装したパターンもある――みたいなね」  まあ、それは聞いたことがあるな。  探偵だろうが警察だろうが、そこにある証拠――つまり状況証拠だけでは結論を導き出すのは非常に宜しくないということだ。百パーセントそれが真実であるとは言い切れないのだ。  例えば首つりがあったとしよう。九十七パーセントが自殺であったとして、残りの三パーセントは他殺の可能性があるかもしれない、ということだ。それを確定するために状況証拠を精査し、新たな証拠を見つけなくてはならない。  残念ながら、勘というのは新たな答えを導き出すには少々心許ないのが事実だ。勘は想像を拭い去ることが出来ないし、その疑念を拭い去るために証拠がある訳で。  つまり勘というのは、あくまで捜査の方針を決めるための物にしか過ぎないのだ。
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