第一章 地下アイドルの幽霊

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「まあ、結局答えを導き出すのはなかなか簡単なことではない。それは探偵であっても、警察であっても、一般人であっても……ね。そうして正解を導けば一番良いのだけれど、やはり人間の考えることだ。誤答があって然るべきだ。だからこうやって物事を整理するために、一度離れた視点で物事を語っておく方が良い。そうすることで、きっと別の答えが見えるはずだからね。……さて、答え合わせの時間だ。準備は良いかい?」  ようやっと、幽霊とのご対面って訳かい。  長い時間が掛かったような気がするけれど――神原は話が好きだからな。これでも短い方だったかもしれない。  そうして、神原はドアノブに手を掛けると――思い切りその個室の扉を開けた。  ◇◇◇  扉の向こうに広がっていたのは――死体だった。 心臓をナイフで一突き、といった感じだろうか。案外、身体に傷が付いていないように見える。そういったこともあってか、まだ生きているようにも感じさせる。まあ、血色は全くなく青白くなってしまっているのだから、どう考えたって死んでいるのだけれど。死んだ後にこう他人に死体を見せられてしまうというのは、存外どういう思いなのだろう――遺族は嫌がっているに違いない。或いは、見つけてくれて有難いのかもしれないけれど、それは実際に聞いてみないと分からないだろう。  しかし、良く腐っていなかったものだ――本来、こういった場所に放置されていたならば、ある程度腐っていてもおかしくはないだろう。それとも、消毒液の臭いがきついのはそれが理由か? もしかしたら見えないところは腐っているのだろうか。そういや、死体は見えないところが腐っているケースが良くあるらしく、実は臭い消しが相当な役割を担っているケースがあるとかないとか。確かエンバーミングって言ったっけな、お偉いさんやお金持ちが使うような死体保存方法とかあるけれど、あれもかなり凄いらしい。何でも死体なのにまだ眠っているようにも感じられるとか……。死んでいるはずなのに頬ずりしても問題ないし、何なら感染症で死んでしまったとしてもウイルスを除去出来るから普通に触ることも出来るらしい。それにしても、技術というのは凄い進歩を遂げているようだけれど――このエンバーミングだって元を正せばエジプトのミイラ製造技術が元祖でもあるので、そう案外技術も発展していないというか、枯れた技術の水平思考とはこのことを言うのかもしれない。
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