1人が本棚に入れています
本棚に追加
かつての大臣構文を言わなくても、きっと理解はしてくれるだろうよ。
「幽霊は……、幽霊ってことは……、死んでいるってことなの?」
幽霊というのは、もし未練があったなら一生そこに留まることになってしまう――良く地縛霊と言うカテゴリがあるけれど、それがそうだ。そうなってしまったなら、先ずはその未練を解消してあげなくてはならない。解消することで、成仏してくれるのだ。
そういうことだから、この幽霊も成仏させなくてはならないのだろうが――しかし彼女の姿はゆっくりと消えつつあった。
「……もしかして、見つけてもらえなかったことが未練だった、ってことか?」
「分からない……、分からないけれど、見つけてくれたのはとっても嬉しいな。今までは誰も見て見ぬふりだったから……」
それはきっとマリサも含めてのことなのだろう。ともあれ、マリサのことを叱ることも出来やしないだろう。当たり前と言えば当たり前だが、幽霊を見て驚いてしまわない人間など居やしない。そうして、幽霊に対して拒絶や恐怖心を抱いてしまう人間だって、当然ながら居る。マリサがそういう人間であった、というだけだ。
だから、これは致し方ないことだ。
しかし、その幽霊を成仏へ導けたのならば――このプロセスもまた、悪くなかったのかもしれないけれど。
「あたし……死んでいたんだね。だから、こうやってちょっとは有頂天な気持ちでいたのかな?」
いや、それは違うと思うけれど……。
幽霊だから文字通り天に昇る気持ちだった、というのならそれはそれで幽霊ジョークとして心の中で笑うことぐらいはしてあげるけれど、有頂天かどうかと言われると、それはちょっと違うんじゃないかなあ、多分。
「きみはこれから成仏することになるだろう。その先の未来は分からない……。だから、きみの身体は、きみの亡骸は大事に奉ってあげよう。今までは誰にも見つけられなかったんだ。先ずは家族を――きみが何者であるかを探さなくてはならない」
心霊探偵の、腕の見せ所だ。
心霊探偵は、幽霊専門の探偵である――つまり幽霊に出会ったのならば、その力を発揮する。
言い方は悪いが、それまではただの人間だし、他の探偵のそれと比べて頭脳は明晰でも何でもない。
けれども、そのジャンルに特化した探偵というのも、別に珍しい話でも何でもない。
ただ愚直にやっていくだけに過ぎない。
探偵というのは、時に泥臭く活動する仕事でもあるのだから。
「……分かった。誰だか分からないけれど、最後に出会えたのがあなたで良かったような気がする。有難う、ええと……」
「探偵だ。それだけで構わない」
せめて名前ぐらいは言ってやれよ。
きっとあの世では知名度ナンバーワンだぞ、多分。
「探偵さん、どうも有難う!」
まるでヒマワリのような笑顔をして。
一人の少女の幽霊は――完全に消失した。
最初のコメントを投稿しよう!