第一章 地下アイドルの幽霊

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 かつての大臣構文を言わなくても、きっと理解はしてくれるだろうよ。 「幽霊は……、幽霊ってことは……、死んでいるってことなの?」  幽霊というのは、もし未練があったなら一生そこに留まることになってしまう――良く地縛霊と言うカテゴリがあるけれど、それがそうだ。そうなってしまったなら、先ずはその未練を解消してあげなくてはならない。解消することで、成仏してくれるのだ。  そういうことだから、この幽霊も成仏させなくてはならないのだろうが――しかし彼女の姿はゆっくりと消えつつあった。 「……もしかして、見つけてもらえなかったことが未練だった、ってことか?」 「分からない……、分からないけれど、見つけてくれたのはとっても嬉しいな。今までは誰も見て見ぬふりだったから……」  それはきっとマリサも含めてのことなのだろう。ともあれ、マリサのことを叱ることも出来やしないだろう。当たり前と言えば当たり前だが、幽霊を見て驚いてしまわない人間など居やしない。そうして、幽霊に対して拒絶や恐怖心を抱いてしまう人間だって、当然ながら居る。マリサがそういう人間であった、というだけだ。  だから、これは致し方ないことだ。  しかし、その幽霊を成仏へ導けたのならば――このプロセスもまた、悪くなかったのかもしれないけれど。 「あたし……死んでいたんだね。だから、こうやってちょっとは有頂天な気持ちでいたのかな?」  いや、それは違うと思うけれど……。  幽霊だから文字通り天に昇る気持ちだった、というのならそれはそれで幽霊ジョークとして心の中で笑うことぐらいはしてあげるけれど、有頂天かどうかと言われると、それはちょっと違うんじゃないかなあ、多分。 「きみはこれから成仏することになるだろう。その先の未来は分からない……。だから、きみの身体は、きみの亡骸は大事に奉ってあげよう。今までは誰にも見つけられなかったんだ。先ずは家族を――きみが何者であるかを探さなくてはならない」  心霊探偵の、腕の見せ所だ。  心霊探偵は、幽霊専門の探偵である――つまり幽霊に出会ったのならば、その力を発揮する。  言い方は悪いが、それまではただの人間だし、他の探偵のそれと比べて頭脳は明晰でも何でもない。  けれども、そのジャンルに特化した探偵というのも、別に珍しい話でも何でもない。  ただ愚直にやっていくだけに過ぎない。  探偵というのは、時に泥臭く活動する仕事でもあるのだから。 「……分かった。誰だか分からないけれど、最後に出会えたのがあなたで良かったような気がする。有難う、ええと……」 「探偵だ。それだけで構わない」  せめて名前ぐらいは言ってやれよ。  きっとあの世では知名度ナンバーワンだぞ、多分。 「探偵さん、どうも有難う!」  まるでヒマワリのような笑顔をして。  一人の少女の幽霊は――完全に消失した。
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