第一章 地下アイドルの幽霊

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 そして、それにいち早く気付いたのはマリサだった。  マリサも第一発見者として――狭義では彼女一人がそれに該当する――一緒にぼく達と事情聴取を受けていた。  そんなマリサは休憩しようとマネージャーとともに楽屋へ向かおうとした矢先に、それを目撃した――といったところだろう。 「何だ、お前さん。これに見覚えがあるのか?」  お前さん、というのはどうなんだろう。目の前に居るのは地下という装飾が付くとは言え、立派なアイドルであることは間違いないのだし。芸能人だと言われると、正直疑問符は浮かんでしまうけれど。 「ムーンクイーンズの限定ストラップだよ、これ!」  マリサは言うが、そうさも一般常識のように言われても分からないんだよな、それ。もう少し掻い摘まんで説明してくれないか? 「ムーンクイーンズというのは、サンシャインズのライバルとして位置づけられた、地下アイドルのことです。サンシャインズはまるで太陽のように輝く笑顔を振りまくのがスタンスだとするならば、ムーンクイーンズはクールに振る舞うスタンスが大事だと言われ、その対比でファンを双方増やしていくことが出来たんです」  ふうん、まあ居るかもしれないとは思ったけれどそういう地下アイドルも居る訳ね。もしかして運営会社一緒だったりしないよね? 「社長同士が仲が良い……ってのはありますけれど、運営会社は全く別物です。資本関係もありません。ですから、これは社長同士が仲良しだからこそ生まれた、相反する地下アイドルなんです」 「成る程ね、月と太陽――確かに相反する存在ではあるわな。けれども、ならばどうして彼女がこれを? もしかして、どっちも好きなアイドルだったとか?」 「あー、それなんだがな、こっちから補足させてもらえるかね?」  文野刑事がタブレットをスタイラスペンで操作しながら呟いた。  にしても時代だな……、警察官のメモと言えば、いつまで経っても紙が主流なのかとばかり思っていたけれど、気付かないうちにデジタル化が進んでいたらしい。とはいえ、流石にインターネットに常に接続出来るような設定とかはしていなさそうだけれどな。色んなウイルス対策ソフトが入っていて、動きがもっさりしていそうだ。  暫く操作していると、文野刑事は手を止めて話を始めた。
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