第二章 シュレーディンガーの幽霊

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「逆では?」 「あれ、そうか……。ああ、確かにそうだな。口から心臓が飛び出しそうになった、が正解か」  冷静だな、全く。  冷静であるのは構わないけれど、もっとちゃんと日常生活を送れるような人間であって欲しいものだけれどね。 「口から心臓が飛び出そうに……ね。驚いたことに対する感想としては一番知られている表現なのかもしれないけれど、いざ現実に当てはめてみると……、そんなこと有り得るのか? という話になってしまうのだけれどね。どう思う?」 「どう思う? と言われてもね……」  事務所の中央にあるソファに、ぼくは腰掛ける。とはいえ既にゴミ袋という先客が居たので、丁重にそいつらを床に置いてやった。  人間が座る場所にゴミ袋を置くんじゃないと何回言えば分かるものなのか――ここまで来るとわざとやっているんじゃないか、などと思うようになってきてしまう。あんまり他人を疑うことはしたくないのだけれどね。 「良く言うよ、他人を信じたことがないくせに。……ま、それは僕ちゃんも同じかな。誰も信用はしていない、だからこそ僕ちゃんは孤独だ」  そう。  こいつは天才だ。それは紛れもない事実だし、だからこそ探偵という普通の人間では出来ないような仕事で飯が食えている。  けれども、裏を返すと――天才過ぎた、というのが事実だろう。  天才過ぎるが故に、一般人の常識が理解出来ない。  自分の思考があまりにも凡人には追いつけない範疇であることを、全く理解していない。  だから、孤独だった。  だから、独りだった。  だから、孤立だった。 「……お前はいつまでも、独りだったからな」  独りであることを自覚すると、衰えが早い。  だからこそ、独りであることを自覚しない方が良い。  独りであることは、毒だ。  まあ、それを良いと思う人だって居るのだけれど。毒を食らわば何とやら、とはこのことを言うのだろう。多分。 「ところで、僕ちゃんに会いに来たってことは、何か暇潰しでもしに来たのかい?」 「暇潰しという物でもないし、そもそも分かっているだろうよ。ぼくがやってくるってことは……」 「――分かっているよ、また幽霊未遂か?」
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