第二章 シュレーディンガーの幽霊

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 幽霊未遂。  要するに幽霊を見ることが出来たのは、ただ一人であるから――本当に幽霊の存在があるのかどうか、というのが分からない。だから第三者が見ることが出来るようになるまでは、あくまでも未遂という解釈になる訳だ。  無論、それが一般常識という訳でもないし、多分神原が勝手に言っているだけに過ぎないのだろうけれど。 「幽霊未遂だよ。……相変わらず、という感じだけれどその単語止めた方が良いんじゃないか? だって、それって依頼人を信用していないってことだろう」 「幽霊というのは、人を騙すのには最適ではあるからねえ。何せ見ることが出来ない存在だし、信用している人にとってはたとえ見えなくても問題なかったりするのだから。――宗教だってそうだろう? 人の拠り所とは言われているけれど、要するに弱みにつけ込んで金をせしめる宗教だってあるだろうよ」  全部が全部そうとは言い切れないと思うけれどな……。別にお金が全てとは言わない坊さんだって居るだろうし。それと、その台詞絶対表で言うんじゃないぞ。何か訴えられても、流石に弁護までは出来ないからな。 「そうしたら弁護士でも雇うさ。ともあれ、間違ったことは言っていないと思うけれどねえ。皆、思っているけれど見えない圧力で言えないだけじゃないか」 「まあ、その話を散々するつもりはないのだけれど……、とにかくぼくが話したいのは幽霊の話だ」 「幽霊未遂」 「……幽霊未遂の話だ」  面倒臭い探偵だよ、本当に。 「幽霊未遂、か。しかし最近多い物だね。僕ちゃんが探偵を始めた頃は大して多くもなかったから、これで食べるのは難しいとばかり思っていたけれど――今じゃ、月に一回はある。これならまあ何とかなるかなぐらいの感じでやっていけるし、悪くはないかな」 「こないだの地下アイドルの報酬は、もう入ったのか?」 「ああ、あれか――」  神原は袖机からスマートフォンを取り出すと、何回か画面をタップしたりスライドさせたりしている。恐らくQRコード決済アプリで残高か取引履歴をチェックしているのだろう。 「――入っていたよ。早いもんだね、ああいう職業というのはお金のやりくりが大変だと聞いたことがあるから、少し回収に手こずるかなとばかり思っていたけれど、ちゃんとしているようで良かった」 「因みに」 「うん?」 「幾らだったんだ?」 「スイスエアラインでチューリッヒ直行便に乗れるぐらいかなあ」
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