1人が本棚に入れています
本棚に追加
連絡を取ってから二十分後にそいつはやってきた――こいつはいつもそうだけれど、下駄でやってくるから階段を降りる音で分かっちゃうんだよな――カンカンという音がするので、マネージャーはすっかり待ち構えてしまっていたけれど、別にそんなに仰々しく待ち構えなくても良いんだぞ?
「……それにしても地下ってどうして黴臭いんだろうねえ。相変わらずと言えば相変わらずなのだけれど、ともあれ、直ぐに出て行くんだから別に良いか」
相変わらずつまらなそうなことを長々と語る男だ――扇子をばさばさとしているところを見ると、暑かったのかもしれないな。そういや、ぼく達はあれから結局劇場のバックヤードで休憩させてもらっていたから外に出ていないし。でも、もう上は夜のはずだろう? だったらもうそこまで暑くもないような気がするが。
「……その、何というか、本当に探偵なのか……? 着流しに下駄って、昭和の小説家みたいな……」
「失敬な。一応探偵一本でやっているんだ。それについて文句を言われては困るな。……それとも、今回の事件については聞かぬ存ぜぬという話で問題ないということで良いのかな?」
「駄目だろ、神原。きちんと探偵としての仕事を果たしてくれよ。何のためにお前を呼んだと思っている」
そろそろ突っ込みを入れてあげないと、こいつが暴走してしまうからな――暴走してしまうと流石に一般人にはコントロール出来やしない。だったら、そうなってしまう前にぼくがコントロールしなければならない。それが欠点でもある。欠点というか、世の中に完璧な人間というのは居やしないのだし、致し方ないのだけれど。
「……たーくん。きみには悪いけれど、僕ちゃんもちょっとばかしは仕事を選ぶ権利はあるってもんだよ。それとも、仕事を選ばせないつもりかい? 仕事を選ばないと言われるキャラクターもびっくりだよ。多分きっと彼女はそれなりにキャラクターを崩壊させたとしても今後に悪い影響を与えないように仕事を調整しているはずだからね……」
最初のコメントを投稿しよう!