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それがどうした。お前がちゃんと仕事をしないからこっちが調整とか管理とかしてやっているんだろうが。それがなくてもまともに暮らしていくことが出来ていないのだろうから、こっちがサポートもしてやっているんだろう。何処からお金が出てくるのかは分からないし、分かったところで汚れたお金かどうかも分からないし、出来れば知りたくはないよな。
「別にサポートして欲しいとは一言も言っていないような気がするけれど……、まあ、良い。生活が助かっているのは紛れもない事実だし、それを蒸し返したところでどうでも良い紛争に時間を費やせる程、僕ちゃんも暇じゃない」
「分かっているなら、きちんと仕事をしてくれないか? その――」
「――先ずは話を聞いてから、だ。僕ちゃんの仕事は整理整頓が基本的だからねえ」
何を言うか。仕事場は整理整頓の欠片もないくせに、良く言うよ――ともあれ、何とか神原がやる気を出してくれたことについては、一安心と言えるだろう。こいつは本当にやる気を出したがらないからな。どうやって釣るべきか永遠に考えなくてはならないと思っていたし、これだけスピード解決するのは、一歩前進といったところだろう。第一、どうしてここまでお膳立てをしないと、この探偵は仕事をしたがらないのかが謎だ。そういや誰かが言っていたっけ、ぼくが、補佐をする人間が居るからこそぐうたらでいるのではないか? ということを。そこについては概ね同意するけれど、同意したくないのもまた事実。全部が全部受け入れられる内容ではない、ということだ。
神原は着流しの内側にあるポケットから、縞模様の名刺入れを取り出す。確か紬というものを使った伝統的なデザインらしく、このデザインのものを常に十個はストックしているらしい。で、使っていくうちにへたってくるので、見た目が見窄らしくなってきたら交換、といったプロセスだ。実際のところは、誰かに指摘されるまでは交換のこの字もありゃしないのだけれど。
名刺入れから名刺を取り出して、それをマネージャーに手渡した。
「はじめまして、ぼくはこういう者です」
よそ行きの声を聞くのも、随分と久しぶりな気がする――今までは気心が知れた客が殆どだったからな。新規の客は一年に両手で数える程度あれば良いぐらいだし。
「はじめまして。わたしはサンシャインズのマネージャーをしている物部と言います」
いきなり声のトーンを変えてきたから驚いたのかもしれないが、そこはやはりサラリーマン――或いはマネージャーだからかな? 直ぐに適応して、名刺交換を行った。
物部さんは受け取った名刺を見て、呟く。
「……神原心霊探偵所所長、の神原語さん、ですか」
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