情緒不安定

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 そういえば最近、そのビンタの彼女がトレーニングルームを使っている姿を見ていない。船内の重力発生装置で地球と同じ1Gの環境を作り出されているとはいえ、運動不足は肉体的にも精神的にも不健康だ。 「彼女、妊娠したんだって」トレーニングルームでのランニング中に圭が教えてくれた。  だから情緒不安定だし、激しい運動も控えているとか。  この船内には『医療カプセル』の他に『出産カプセル』というものがあるらしい。妊婦や胎児の心音や血中酸素濃度、他全てを把握し、妊婦への声かけも自動で判断し、産まれた赤子も産婦もケアされる。人の手が無くても安全に管理・出産させてくれるものだ。 「圭はどうしてその事を知っているの?」  ビンタの彼女の妊娠の事も、『出産カプセル』の事も、一体いつ知ったのだろう。私が起きて個室から出て、就寝時間に個室に入るまでほとんど私は圭と一緒にいる。就寝時間を過ぎてからのリビングの使用は禁止されているはずだし…。 「時々、男達だけで夜に個室で会合をしているんだよ。船内で見つけた新しい物の報告とか何か問題は無いか、とか。お酒があれば一番良いけどね」  そういえば、男性達は仲が良い。逆に女性達は、顔と名前を知っている程度で、ほとんど話をした事がない。常に男性が一緒にいるからだ。  まるで女性同士でつるまないように…男性に見張られているようだ。  そのことに気がついた時、ますますこの船内が窮屈に感じるようになった。これがあと1年半も続くのか、そしてその先は地球人未踏の地であると思うと…逃げ出したくなってきた。  どこに?  地球に?  ―――もうあの場所に無いのに? 「奈緒?大丈夫か?」  私は過呼吸を起こし、倒れ込んでしまった。
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