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「約20年前から、かな」
「そんな以前から、何故」
「最初は左腕から切られ、右腕を失い、両脚をばっさり、これで何も失うものはないと思ったけれど、次に心臓引っこ抜かれて死んだと思ったよ」
「何故、続けるんです?」
そこまでされたら、いや、腕がなくなった時点でこの仕事辞めようと考えるはずだと思うけど、大切な体のパーツを失っても20年続けようとする理由は何なのか、気になったので私は訊いてみた。
「単純な興味かもしれない」
「違います、執念ですよね」
「ぼくの住む星に以外にも、人の住む星があるのなら、そこに行ってみたい。小さい頃からそう思っていた。ぼくは自分の野望を実現するためにこの仕事を選んだ。20年前にも同じ質問されたなぁ」
「20年前と動機は変わらないということですね」
体のパーツはいくらすげ替えられても、気持ちはすげ替えることは出来ない、か。長く航海していれば、宇宙の洗礼を必ず受けることもあるようだ。普通なら辛くて話したくないことなのに、それをつい昨日のことにようにさらっと口にするスコット船長は、どういうメンタルをしているんだ。
「さて、テイクオフしてから宇宙船が軌道に乗った頃だろう」
スコット船長は、コクピットの操縦管を手動から自動に切り替えた。ここからは星雲に座礁する確率も低ければ、海賊船の航路にひっかかる確率も低い、自動運転でも安全率は下がらないという訳か。
「休憩ですか?」
「何かあれば、管制塔から連絡が来るだろうさ。目的の星に到着するまで、時間はまだまだある、とはいえこの宇宙じゃあ時間は存在しないがね」
珈琲を一口啜ると、コクピットの後ろに位置する遣星使の控え室に歩いて行った。
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