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俺はあの公園に戻って来た。
4月も半ばになると、菜の花の上をモンシロチョウが飛び交っている。
俺にとって始まりの場所でもあり、終わりの場所でもあった。
桜はとうに散り、眩い若葉色が満開となっていた。
白いベンチを、薄っすらと淡い黄緑色に染めている桜の木が、俺の帰りを待っていたように感じた。
そんなベンチを見つめていると、季節外れの春一番、いや春八番くらいかもしれない、少し生暖かい突風が吹いた。
ベンチの下に残っていた数枚の桜が巻き上げられ、ベンチの少し上をフワリ、フワリと落ちて行く。
桜の花を追って、ベンチへと下げた視線の先に、退屈そうに桜の木を見上げ、座っている恵美がいた。
短く息を呑み込み、目を見開いた。
「恵美!」
俺の声に気付き振り向いた恵美は、眩しいほどに表情を明るくした。
口を動かし、喋っているが、恵美の声が聞こえない。
落ちて行く桜の花は、恵美をすり抜けてベンチの座板へと着地した。
「恵美、待っててくれ。必ず君を見つけるから。今度こそ、約束だぞ。必ず……会いに行くから──」
幻覚だと分かっていても、消えないで欲しい。
彼女は立ち上がり、短く言葉を口にし、はにかむように微笑んだ。
口の動きで分かった。
「おかえり」
そう言ってくれた。
白いベンチ
おわり
この物語はフィクションです。
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