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お盆を過ぎると、時折り涼しげな風が吹く。鮮緑に染まった桜の葉が、サワサワと揺れる。
そんな桜の木に囲われた小さな公園で、蜩の哀愁歌がこだましていた。
ずいぶん低くなった太陽が、空に浮かぶうろこ雲をオレンジ色に深めている。
西側から公園を覆うように、枝木の影がのびると、二人の男女が座る白いベンチは薄紫色へと変わった。
まるで、彼女との時間を名残惜しんでいる俺に、早く帰れと促しているようだ。
彼女もまだ帰りたくなさそうだ。
さっきから、他愛もない話題を切り出している。
仕方なく「そろそろ帰ろうか」と、口を開きかけるよりも一瞬早く、彼女がこんなことを訊いてきた。
「例えばなんだけど、自分の死ぬ日が正確に分かったら、どうする?」
俺と同い年の蒼鳥恵美、高校三年生だ。
俺は越智棟研次。画家を夢見る十八歳。
先月、俺のほうから告白し二つ返事でオーケーしてもらえた。
後で知ったことだけど、俺が恵美のことを知るよりもっと前から、彼女は俺に好意を寄せていたらしい。
「え~! 俺、知りたくないな、そういうの」
「どうして?」
「だって、その日までが、辛いじゃん」
「そりゃそうだよね。普通、知りたくないよね。じゃあさ、この話知ってる?」
恵美の話は尽きなかった──。
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