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 総支配人にお礼を言った二人は、ホテルを後にした。  住所はホテルと同じ名古屋市内だった。少し郊外のほうだが、そんなに遠くはない。  立ち並ぶ民家の一つが、手紙に記された住所の家だった。  ごく普通の家だ。表札に目を遣ると、守屋(もりや)とあった。蒼鳥ではない。  インターホンに人差し指を添えた研次は、手を止めた。  また関係ない人が現れ、追い返されるのではないかと、指先が震える。 「どうした研次?」 「いや、大丈夫だ」  そう言って、人差し指に言い聞かせた。  インターホン越しの声は、少し疲れているような、若くはないであろう女性のものだった。 「はい」 「突然すみません。越智棟研次と申します」  少し間をおいて、息を呑む音が聞こえた。 「研次くん? あ、え、恵美の……」  何故か分からないが、動揺している。インターホン越しでも、それが伝わってきた。  玄関のドアを開け、顔を覗かせた女性は、恵美の母親だと言った。  恵美の母は、研次と彰を丁寧に呼び入れてくれた。  そして、リビングへと案内され仏壇の前の座布団へと誘われた。 「恵美です」  恵美の母は、仏壇のほうを見ている。 「はい?」  研次は、何の冗談かと思い目を丸くした。彰も首を傾げ、頭を掻いた。 「あれ、家を間違えたかな……」 「ああ、表札ね。守屋は私の旧姓なの。ここは私の実家で、娘は蒼鳥恵美。研次くんのことは、生前、恵美から良く聞かされてたのよ。いつもあなたの話をしてた」  瞼を半分落とした恵美の母は、少しだけ鼻を啜った。 「恵美が亡くなってから、すぐに伝えたかったけど、連絡手段がなくて。その後、引っ越しもしたのに、良くこの場所が分かりましたね」  研次は途方に暮れ答えられない。  見かねた彰が「恵美さんの手紙を手掛かりに、この場所へたどり着きました」と、代わりに答えた。
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