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 研次くんへ  この手紙を読んでいるということは、お母さんの実家に辿り着けたんだね。  良かった。  自分の死ぬ日が分かる話、覚えてる?   私は、1975年4月1日だって、知っちゃったんだ。  誰にも言えなかった。  特に研次くんには、夢を叶えて欲しかったから。  私が死んだことを、5年間気付かれないようにして、5年後にお母さんの実家へ辿り着ける方法を必死で考えたんだよ。  文通の内容は、私の空想。  本当は、研次くんと一緒に行きたかった。  研次くんなら、きっとその場所に行ってくれると思って、ホテルに手掛かりを預けたの。  あの日の約束、守れなくてごめんね。  研次くんのことだから、きっと桜の木の下で、ずっと待ってたでしょ(笑)──。 「なんだよ(笑)って。笑えねぇよ……」  ぐしょぐしょの顔で、研次は咳き込むように笑った。    ──研次くん、絶対に夢、叶えてね。  いい人を見つけて結婚して、子供のいる幸せな家庭を築いてね。  そして何十年か経って研次くんの寿命がきたら、私に会いに来て。  今度は私が、天国でずっと待ってるから。  もし天国にも桜の木があったら、そこで待ってるね。  私の大好きな研次くん。          またね 蒼鳥恵美 「なんだよ……なんだよ……あっちにも桜の木があったとして、どれだよ」  止めどなく溢れる涙を抑えきれず、膝が濡れていく。
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