4/4
前へ
/16ページ
次へ
「恵美に訊かれたことがあったんです。もし、自分の死ぬ日がわかったらどうするか、て。俺はその時、気付けなかった。あの時、恵美はサインを出していたんだ」  身体を支えていられず、蹲り、床に肘を着いた。  目の前の床は、ボタボタと濡れていく。 「恵美、なんで教えてくれなかったんだよ。教えてくれていれば、フランスなんかに行かな……」  後に続く言葉を、研次は呑み込んだ。気付いたからだ。  恵美が何故、自分が死ぬことを研次に隠したのかを。  もしも知ってしまったなら、研次が夢を追いかけることを、やめてしまうと分かっていた。 「俺のために、死ぬことを隠し通したのかよ」  乾いた雑巾から絞り出したような声しか出せなかった。恵美を責めることはできない。逆の立場だったら、きっと同じことをしただろう。  ぐしょぐしょのおでこで身体を支え、平坦な床を何度も掴もうとする研次は、どうしようもない現実に、ただ呻くしかなかった。  
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加