25人が本棚に入れています
本棚に追加
6
手紙はいつも1月に届いた。最初の手紙には、1975年8月に上野動物園へ行っている。
「かわいいな」
「そうだな」
耳と目の周りが黒くコロコロとした体躯の生き物が、一心不乱に竹をかじっている。
今度は吊るされたタイヤに捕まり遊び始めた。カンカンだ。
もう一頭は、凄く可愛い顔をしている。ランランだ。
研次と彰は、パンダを見に来たわけではない。恵美の手掛かりを探しにきたのだ。
でも――愛くるしい。
「恵美の手紙には、上野動物園に来たと書いてあったけど……」
しかしながら、五年も前のことだ。カンカンとランランを見に来る客で連日大入りだった動物園に、たった一人の女性客を覚えている者など皆無だと思った。ランランを見つめていた研次は、ふとこんなことを想った。
(恵美も、こうやって見てたのかな、パンダ。一緒に、見たかったな)
二人は次の手掛かりへ向かうことにした。
「この時期は、穏やかだな」
「ああ。広いな、海って」
恵美の手紙に、1976年の夏、仲の良い友達と二人で海に来たと書いてあった。友達の名前は書いてなかった。
1月に届く手紙には、大抵夏のことが書いてあった。
日焼け止めクリームをたっぷり塗ったけど、日焼けしたと書いてあった。
恵美に会えたら、今度は一緒に海水浴へ行きたい。
誰もいない浜辺では、手掛かりの手の字も見当たらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!