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 手紙はいつも1月に届いた。最初の手紙には、1975年8月に上野動物園へ行っている。 「かわいいな」 「そうだな」  耳と目の周りが黒くコロコロとした体躯の生き物が、一心不乱に竹をかじっている。  今度は吊るされたタイヤに捕まり遊び始めた。カンカンだ。  もう一頭は、凄く可愛い顔をしている。ランランだ。  研次と彰は、パンダを見に来たわけではない。恵美の手掛かりを探しにきたのだ。  でも――愛くるしい。   「恵美の手紙には、上野動物園に来たと書いてあったけど……」  しかしながら、五年も前のことだ。カンカンとランランを見に来る客で連日大入りだった動物園に、たった一人の女性客を覚えている者など皆無だと思った。ランランを見つめていた研次は、ふとこんなことを想った。 (恵美も、こうやって見てたのかな、パンダ。一緒に、見たかったな)  二人は次の手掛かりへ向かうことにした。 「この時期は、穏やかだな」 「ああ。広いな、海って」  恵美の手紙に、1976年の夏、仲の良い友達と二人で海に来たと書いてあった。友達の名前は書いてなかった。  1月に届く手紙には、大抵夏のことが書いてあった。  日焼け止めクリームをたっぷり塗ったけど、日焼けしたと書いてあった。  恵美に会えたら、今度は一緒に海水浴へ行きたい。  誰もいない浜辺では、手掛かりの手の字も見当たらなかった。
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