落果

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 柘榴の実がぼとりと落ちて来た。赤黒くて小さな頭蓋骨みたいな柘榴の実が私は嫌いだ。実が割れて、血まみれの歯がのぞいているように見えるのも不気味だった。思わずフリーズしていると隣から声がかかる。 「あら、ごめんなさい。そちらに落ちてしまいました?」 「房江さん」  隣人の田中房江が枝切り鋏で植木の剪定をしている時に、垣根を越えて落ちてしまったものらしい。 「良かったら、召し上がらない? 見ての通りたくさん実がなってしまって。今、綺麗なものをお渡しするわ」  房江が籠から柘榴を手に取った。 「この柘榴も傷とか付いてないですし。こちらを頂きます」  私だってわざわざ隣人と険悪になどなりたくない。 「そう? いくつかどう? 食べたらお肌つるつるになっちゃうかも」  確かに房江は七十歳と高齢にしては肌艶も良く、綺麗だった。にっこり笑う房江に慌てて首を振る。籠の中の沢山の実を見ると、やっぱり美味しそうには見えなかった。 「いえ、これひとつで」  食べるかどうかも分からないのにこれ以上貰っても困る。房江もそれ以上、勧めては来なかった。
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