空と海がひっくり返った話

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テレビでアナウンサーが明日も雨ですと歌っている カーテンの向こう側 窓を開ける "カラカラ…" "ざぁぁぁぁぁぁ…" 雨が容赦なく降っていた 止むことなさそうな土砂降りの雨 俺はサンダルを履きベランダに出る 下を見れば、そこには、そこには… 星が瞬く綺麗な夜空が広がっていた ☆ 「おはよー!」 「おはよう」 「おはよっ」 人行き交う朝の学校の校舎 「おはよー。なぁ、宿題やった?」 教室に入るなり友達と駄べる俺 「やったやった。進路調査は?」 「ちょっと見せてくんね?…進路調査はテキトー」 「テキトーって、また怒られんぞ」 友達が宿題プリントを見せてくれながら笑う 「書いときゃいーだろ。さんきゅ」 友達にプリントを返して、俺は答えそのまま自分の宿題プリントに写す 「ねぇねぇ、昨日のドラマみた!?」 「泣ける回だったよね!」 「なぁ、放課後バスケしねぇ?」 「宿題みせて!今日当たるのに忘れた」 「今度一緒にデートしよー??」 次第に俺の周りに人が集まる 群がる人、クラスの人気者、笑う俺 チラッと横を見る 窓の向こう側クジラが俺を見ていた ☆ "カリカリカリ…" 黒板に先生が書いた白い文字をノートに写していく 規則正しく並ぶ机と椅子の窓際の真ん中席 先生が振り返る 「まぁ、みんな知っていると思うが、もう何十年も前に空と海がひっくり返った」 うんと昔の話 なんでそうなったかは分からないまま ただ、海が空で、空が海になった話 それからは雨続き 本来あった海で空は星々を輝かせ クジラが空という海を支配していた 俺は窓を見る その先にある空という海 永遠に広がる青い空 まぶしく、太陽は底に存在していた この雨は、海から落ちる塩水 空は雨を吸い込み、宇宙彼方 夜にはキラキラな宝石が瞬く 重力があるのかないのか 不思議な光景 思うことがある あの空に行けるなら、泳いでみたいと ☆ 「調子乗っているの?」 「いやぁ、そんなつもりは無いですよ先生」 「もっと具体的な大学名とかあるでしょう?こうゆう夢もいいけれど、これは進路調査です」 「…はいぃ」 「はい、明日までに再提出よ」 いや、先生 そうはいいますけど、いいでしょ?この俺の夢 なんて、言える雰囲気もない職員室 仕方なく調査表を受け取って職員室を出る 「だめか…」 独りごちる廊下 窓の下を見れば広く沈んだ空 あそこに行ってみたい…そんな俺の夢を周りは笑うんだ ☆ "カンカンカン…" 階段を上る その先の扉を開けた "ガチャ…" 開けた瞬間ぶわっと風が吹く 屋上に登ると、かすかな潮風が俺の頬を撫でた 「…ないよ、そんなもん」 ふと聞こえた声 女の子が雨の中、ゴロンと横になって紙を取り出していた 紙から見えた"海飛行士"の文字 「なりたいの?」 俺は声をかけた 「…え」 女の子は驚いた顔をする 俺が入ってきたことに気づいてなかった顔だ 「なりたいの?それ」 紙を指さす 「あ…興味、あるだけ」 「やってみたら?ほら、進路調査の時期だし」 「これを?また先生に何言われるか」 女の子は怪訝な顔をする 「じゃぁー。はい、コレ」 俺は制服ポケットから紙を取り出し女の子に渡す 「なに、これ…『コスモスダイバー』?」 「俺の進路調査表」 「まさか、これを出したの?」 女の子は驚きと困惑の顔をする 「そう、俺の夢。ま、先生にもっと具体的な大学名とかって言われちゃったけど」 「じゃぁ、私も言われるじゃない。却下」 女の子は俺の進路調査表を返してくれる 「2人で出せばワンチャン??」 「……いや、ないわ」 女の子は一瞬考える素振りをして、吐き捨てる 「ないか……宇宙潜ってみてぇぇぇぇ」 女の子はそう嘆く俺を横目に、ボーッと空を眺め始めた 「クジラって神様なのしってる?」 女の子が唐突にそんな事を聞いてきた 「…いや、しらない」 「昔の人は、クジラが大きな口を開けて小魚等を食べる様子から"漁師の神様"と呼んだそうなの」 「へぇぇ、面白いな」 「そんなクジラが今は空を支配している。クジラをもっと間近で見てみたいと思う」 「月には兎が住んでいるって話しってる?」 今度は俺が話をする 「お月見とかよく言うよね?」 「そう。昔、お爺さんが倒れていて、狸と狐、兎が心配して集まった」 お爺さんの為にと食べ物や温まるものを持ってきた狸と狐 でも兎は何も持ってこられず、悲しんだ兎は自分の身を火に焚べ、お爺さんの食料になった それをとてもとても悲しんだお爺さんは、なんと神様で、兎を思って月に登らせ住まわせた 「へぇ。そんな素敵な話があるんだ」 「いっても、本で読んだだけなんだけど。でも、その兎が住む月に俺は行ってみたい」 「本当に住んでる訳では無いのに?」 「分かってるよ。でも、あのキラキラ輝く宇宙という海を泳いでみたいんだ。宝石みたいで…もしかしたら兎に会えるかもじゃん」 分かっている 宇宙に生物は存在しないし、御伽噺にすぎない でも、月は底にあるし太陽も輝き続けている 夜になれば無数の宝石という星が、すぐ其所にあるんじゃないかと散らばる あの光景を家のベランダから見ると、飛び込みたくなる 堕ちたら助からないのだけれど、それほどに空は俺を引き寄せる
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