空と海がひっくり返った話

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今日も雨が降る それも土砂降りの雨 傘にぽつぽつぼたぼたと雨音がなる 「やだなぁ…」 私の一言は雨音で消えていく 空を見上げる そこには、そこには…… 壮大な海の中をクジラが我が物顔で泳いでいた 「ホェェェェェェェェェ……」 ☆ 教室で先生が淡々と授業を進めていく その、呪文ともとれる言葉を先生は話す ズラっと規則正しく並ぶ机と椅子の後ろの窓際席 机の上はテキストとノート、シャーペン、消しゴム ちなみに、ノートはまっしろ… 窓を見る クジラが悠々自適に空を泳いでいる 厳密にいえば、空ではなく海 もう、耳にタコなくらい授業で習った話 何十年も前、お母さんが生まれてもなく、おじいちゃんも子供だった頃の話 空と海がひっくり返ったらしい なにがどうなってそうなったのかは、未だ解明中で 新しい海をクジラが支配したそう それからは雨の日が増えたらしい 町は何日も洪水したらしいが、今は元の街になりつつある ビルとビルの隙間から顔を覗かせるクジラ 窓から見えるそのクジラの瞳は少し怖い それは、大きなものに対する恐怖なのか 其処に居ない者がいるという興奮なのか 私が生まれた頃から、この景色 変わらない毎日 先生が私を注意するまでがテンプレで… ☆ 「お前、授業聞いていたのか?」 「はーい…」 「ノートはとったのか?ペンをもつ素振りなど見なかったが」 「はーい…」 「話聞いているのか??」 「はーい…」 先生の質問に同じ回答をする私 私の視線は窓 クジラ一直線 クジラは、自由に泳いでいた 「…はぁ。進路調査はどうした?お前だけだぞ出してないのは」 先生が、職員室を出ようとした私に声をかけた 「…はーい」 "ピシャリ" ドアを閉めた途端、聞こえてくる先生達の声 「いやぁ、困った生徒ですねぇ」 「ほんとですよぉ…どうしたものか」 「まぁ、どのクラスにも1人は居ますよね。問題児」 「うちにも1人居ますよー明るい子でクラスの人気者なんですけど進路調査がねぇ…」 「はぁ…クジラになりたい」 ため息ひとつ ひとり、窓側を歩く クジラが私の斜め上を泳いでいた ☆ "ガチャガチャ、ガチャン!" "キーーーー…バタンっ" 「はぁ、気持ちーーーー!」 私は屋上にあがり、寝っ転がる 目を開けると海にはクジラ 手を伸ばせば届くんじゃないかと錯覚する距離 クジラの周りには小魚が群れを作って泳いでいる 「ホェェェェェェェェェ……」 クジラの鳴き声 波がザパァァンとあがる 厳密に言えば、さがっているのだが 水飛沫が雨として落ちてくる 私の顔にぽたぽたと水滴 今日も雨 こさぶりなので天気はいい方だ 傘もささず、寝っ転がる屋上 背中もチェックのスカートも雨でびしょ濡れになっていく 制服は可愛くて好きだけど、学校という場所に行くのが憂鬱で仕方ない 高校3年生、進路、将来の夢、未来 「…ないよ、そんなもん」 クジラが私の上を泳ぐ 大きなお腹 羨ましい 私もこの壮大な海の中を泳いでみたい 自由自適に、誰の目も気にせず 制服のスカートポッケに手を突っ込み紙を取り出す A4サイズのくしゃくしゃになった紙にでかでかと書いてある言葉 それはある広告 「なりたいの?」 「え…」 突然聞こえてきた声 声の方を見ると男の子がひとり笑っていた "青い出会い、海飛行士募集中!" 広告には青い海と大きなクジラが泳いでいた
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