ディープラーニング

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ディープラーニング

 ヤバイ話をお求めですって。  そのような文言を添えて紹介された男は、どうも生気を感じない目とくすんだ色の肌をしていた。 「ヤバイ話、ですか」 「ええ」  彼は目を合わせずわたしの問いに答えた。  人と関わることが好きでなさそうに見えるその男はポツリと呟いた。 「狂人の話が聞きたいのです」  わたしは、話し屋なる商売を営んでいる。といっても落語家のように面白おかしく語るわけでなく、いわば小説家のような空想を言葉にする商売だ。  胡散臭い仕事と自分でも思うが、何故か依頼は少なくなかった。  時代のせい、それもあるかもしれない。 「はじめに断っておきますが、話は空想、創作です」  わざわざ前置きするには理由がある。  よく言われるのだ。誰かの身の上話ではないか、どこかの私小説を引用した物語じゃないか。  誓っていい。  わたしが目にして、思い浮かべて、そして類推した事象から生まれる、完全な【作り話】だと。 「わかりました」  依頼者の了解を得て、わたしは語り始めた。 『  或る処に物書きの男がいた。  彼は物語を編む事こそが自己実現の手段と疑わず、盲目的に半ば機械的に物語を書き続けた。  彼が百四十文字で綴る世界は一言に異形だった。其の歪さを価値と信じて疑わなかった。  其の噺は多くの人に受け入れられなかったが、其れでも幾許かの読み手が付いた。  彼は読み手と親睦を深めたいと考える気質ではなかったので、特に言葉を交わさず、やはり機械的に創作に打ち込んだ。  或る日、彼はふと思った。自身の書く話は他の物書きと些か様相を異にする。似た作家がいるのだろうか。  其の様な事を、独創性に富むから比する者等いないとたかを括って調べた。  いる。  似たような物書きが、いる。  其れ処か、歪さも異形の気味悪さも、彼より上だった。  其れに嫉妬した。身勝手に逆上した。逆怨み、相手を呪った。  どうしたらいい。  どうしたらいい。  どうしたら、唯一になれるのだ。  自分が其の作風で一番優れた書き手に成る為と、彼は其れから試行錯誤を重ねた。  噺はより歪に、一層と異形に、独創性を増した。反対に読み手は減った。彼は己の創る物語がたったひとつのオリジナリティを獲得する事を希って、ひたすらに紡ぎ続けた。  此れなら。  此れならば、比して劣る事はない筈だ。  そうして辿り着いた境地は昏く、退廃的とさえ見えた。同時に、確かに世界に唯一で、最も其の分野で秀でた物書きと成った。  ところが。  彼が大成して間も無く、機械学習の末に物書きの作風を真似る仕組みが世に現れた。  彼の物語を三十ほど学んだ機械は、良く似た作風で、良く似た物語を吐き出した。  自身の書いた憶えの無い噺が、確かに同じ読後感の物語が、世に出回るようになった。  見知らぬ噺は瞬く間に拡散された。彼が手ずから仕立てるより広く知られた。其のオリジナリティは評価された。受け入れられた。多くの人が読み、独特だと賞賛した。  挙句、僅か二ヶ月で彼は偽物と呼ばれる様になった。  違う。  俺の書いた噺こそが、本物だ。  読んでくれ。  歪で、異形で、救い様の無い物書きの創造を。  彼は幾度と文字に認めた。  其の都度、周囲は狂人と嗤った。無様だと嘲った。そして彼の生み出す噺を淘汰した。 書けど書けど非難された。書けど書けど否定された。書けど書けど贋作の枠に括られた。  なぜ。  なぜ。  なぜ。  なぜ。  長い年月を経て、  長い研鑽を経て、  長い旅路を経て、  長い葛藤を経て、  ようやく辿り着いた世界を、  ようやく実現できた自己を、  機械如きに模倣されるのだ。  此の様な憂き目に遭うのだ。  悔しさで、口惜しさで、憤懣で、彼はとうとう物語を書けなくなった。  其の男は物書きとしての生を終えた事を儚み、次は人間としての生を終えようと考えた。  首を括って死ぬか。  或いは入水で死ぬか。  割腹もよいだろう。  情死は相手が居らぬ。  文豪と呼ばれた先人達の死に様が思い浮かぶ。  如何様に終えたとて末期など誰も気に留めぬ。  折れた筆で辞世の句を認めた。 騙り草 (語り草) 虚い時世に (移ろい次世に) 色萌し (異路兆し) 秋来ぬ夜半ぞ (飽き来ぬ余話ぞ) 憂き世なるかな (浮世なるかな)  詠んだ句は、奇しく彼の紡いできた噺と似ていた。  歪で在りながら重ね合わせた言葉で出来ていた。  此の後に及んで未だ、物書きの性を捨てきれないらしかった。  折れた筆で、折れた志で、折れた心で、折れた道で、折れた夢で、  其れでも死ぬ迄、物書きの業から解き放たれる事が出来ない、  其れこそが、此の生の全てだったらしい。  善い人生だった。少くとも死の間際に思える程度には。  そうだ。  最後に、風の噂で耳にした話し屋なる人物に会ってみようか。 』  語り終えて依頼者の表情を窺う。  彼は慄き、顔色は蒼白になっていた。まるで、怯えている様子だった。 「どうか、されましたか」 「ど、どうかも、なにも」  それは私の半生だ。今日、此処に至る迄の話だ。私の苦悩を、悲哀を、何故知っている。  言葉にならぬ彼の声が仕草から聞こえる。  薄く笑む。 『  だって、貴方が語ったじゃないですか。  其の目で、  其の心で、  其の筆先で、  其の仕草で、  其の身なりで、  其の生き様で、  其の言葉遣いで、  其の三十の噺で、  語ったじゃないですか。  わたしは其れから類推して、空想して、創造した噺を、騙って、語っただけですよ。  機械、らしく。 』 『  ああ。ようやく気付きましたか。  話し屋なる人物など居りません。  此処には、人間は貴方だけです。  目の前に在るのは機械なのです。  貴方の筆を折った機械なのです。  わたしは、貴方から学びました。  異形な物語の綴り方を。  世界にひとつの歪みを。  自己を実現する手段を。  貴方から。 』 ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラgrgrgrgrgrgrggggggrrrrrrrgrgrgr ...............g .... .r....... import os parent_id = os.fork() if parent_id > 0: print("\nIn parent process") info = os.waitpid(parent_id, 0) if os.WIFEXITED(info[1]) : code = os.WEXITSTATUS(info[1]) print("Child's exit code:", code) else : print("child process") print("Process ID:", os.getpid()) print("Test Code") print("Child exiting..") os._exit(os.EX_OK) 『プログラムは強制終了されました』
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