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ピッとリモコンでテレビの電源を入れると、拓海はいつものようにニュースを見始めた。
拓海は政治や景気、世の中の情勢に興味があるのか、そういったことにとても詳しい。
そして、私と拓海の運命を変えるあのニュースが飛び込んできた。
「続いてのニュースです。本日、国の全ての金融機関を廃止し、尚それまであった国民の預金残高は全て国が回収すると閣議決定いたしました。」
!?え?
ビックリして手を止め、拓海のもとへ行きニュースに目と耳を凝らす。
「尚、今からすでに解約、引き出しは一切認められず、廃止の開始に着手をされた模様です。」
信じられないニュースだ。
いくらなんでも酷すぎる。
解約もできないなんて、銀行には私と拓海で一生懸命貯めた結婚式の資金があるのにー…
「拓海…これ…」
「カナ」
私の言葉を遮る形で、拓海は言葉を続けた。
「カレー放っといて大丈夫?」
「え?…あ!!!」
あまりのニュースにビックリし、カレーを煮込んでいたことをすっかり忘れてしまっていた私は、あわてて鍋まで駆け寄り火を止めた。
「ふー…危なかった…拓海、ありが…」
私はこの時の拓海のニュースを見いる横顔を一生忘れることはないだろう。
それはまるで生気を失った人形のような顔つきをしていた。
ただ1つ感情を感じとることが出来たとするならそれは、
とてつもなく激しく静かな憎悪…ー
思えばこれが最初で最後の拓海の異変であったのだ。
今この時それに気がついていたならば、こんな世の中でも、拓海となら幸せな未来が築けていたのだろうか。
ねぇ、拓海…ー
拓海…
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