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不意に、胸ポケットに入れていたスマホが着信を告げる。
画面を見れば見慣れた名前の表示、男はにこやかに通話のボタンを押す。
「君から電話なんて珍しいじゃないか」
『トシヒコさん、お疲れ様。この時間にお仕事終わるの、あの子が理解しちゃったみたいで……』
「ユイが?」
電話の向こうから聞こえていた静かな口調の女性の声、それと入れ替わるように今度は元気な声が聞こえてくる。
『パパー!!』
「おー、ユイ。ちゃんとママの言う事聞いてたか?」
『聞いてたよ!!今日は早く帰ってくるんでしょ?』
「ユイの5歳の誕生日だからな。プレゼントも用意してるから、そのまま大人しく待ってるんだぞー」
『はーい!!』
軽く会話を交わし、通話終了のボタンを押す。
通話を終えたスマホの画面には、エプロン姿の女性と幼い少女の姿が映し出される。
男が笑みに包まれていると、信号は青へと変わっていた。
プレゼントを鞄に忍ばせ、帰り道を急ぐ。
先程女子高生が話していた話など、完全に頭から抜け落ちたまま。
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