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聞いて欲しい事
巽君の声を聞いて、巽君の話を聞いて、心の中が温かくなってきた。
「大丈夫?」
「うん。あのさ、話したい事があるんだけど。引いちゃうかもしれないけど」
「何でも話して。」
「夫の話なんだけど。」
「うん。」
「夫とね、結婚してすぐに体調不良になってね。元々足の事もあったんだけど、その体調不良もあって自力で妊娠するのは難しいって
お医者さんにハッキリ言われて私達夫婦は治療をする選択をしたの」
「うん。」
「排卵誘発剤とタイミング療法で、何とか妊娠したの。だけど流産してしまって。夫が、妊娠できた時に俺じゃなくてよかったって私に言ったんだよ。」
「うん。」
「それがさ、どうしても許せなくて引っ掛かってて、流産してからは毎日喧嘩してた。夫の事も罵倒したり、酷いことも言った。その後、タイミング療法と排卵誘発剤何回やっても妊娠できなくてさらに喧嘩した。そっちのせいでもあるって言い合いになって…。」
「うん。」
「その後、血圧は上がるし、不安感とかもさらに強くなったりして結局治療はやめた。」
「うん。」
「36歳の時に、夫がラストチャンスで治療をしたいってお願いしてきたけど私は、断ったの。もう、あんな風に傷つけたくなかったから…。」
「うん。」
「心と心がバラバラで、言いたくない、言っちゃいけない言葉がたくさん溢れて止まらなくて…。何度も何度も傷つけたから。治療をやめて、流れに身を任せ始めた。そしたら、喧嘩にもほとんどならなくなって、夫を傷つけてやるって気持ちもなくなった。それと、夫は、最初から私は子供を授かれないかもって思ってたみたいだけどね。でも、治療をして授かれたから治療を望んだ。でも、私は、治療を受けたくないって拒否してる。酷い人だよね?私。」
「そうかな?本当に子供が欲しいならあんたとすぐに別れてるんじゃないの?そうじゃなくて、あんたと居たいから一緒にいるんじゃないの?俺も、結婚したら子供欲しいって気持ちあるけどさ。でも、できないならできないでいいと思うんだよ。だって、それが人生の全てじゃないでしょ?その事に囚われ続けて何もできない方が勿体ないじゃん。」
「うん。そうだよね。」
そう言って涙が出てきた。
巽君も泣いてる。
「ごめん。話とめて。」
「泣いてくれてるの?」
「聞くだけにしようと思ってたんだけどさ。旦那さんが言った言葉とかさ、お互い追い詰められてたんだなって思ったら涙流れてきた。関係ないのにごめん。」
「ううん、何かありがとう。」
「ううん。続けて話。」
「うん。子供の事だけじゃなくて、不安感や動悸や目眩も夫には迷惑かけた。起こされたりして動悸したら起こすのやめてって怒ったり、夫の母の家に行く約束も不安感が出てきて無理になったり、他の用事だって当日にしかわからなくて…。昨日まで行く準備してたのに、行く日の一時間前にダメになったり。」
「うん。」
「体調が優れなかったら寝てばっかりだし、不安感がでて文句も言ったり。」
「うん。」
「それでも、毎日仕事終わってまっすぐ家に帰ってきてくれて。当たり前じゃないのに、当たり前みたいに思ってる自分がいて。」
「うん。」
「そんなにしてくれてるのに、不安感がずっと拭えなかった。何か、心の一ヶ所だけなんかかけてる感じだったんだと思う。」
「うん。」
「それが、巽君に出会って繋がったの。だから、巽君と話してると不安感がマシになってく。でも、私は夫が好き。それに、夫には幸せでいて欲しい。でもさ…。」
「言う相手間違ってるよ。」
「ごめんね。」
「俺とって話?俺は、別にあんたと旦那さんと別れてもらおうなんて俺は思ってないよ。」
「そうじゃないよ。だけど、巽君と出会って不安感がなくなったりするなんて。やっぱり変だよね。私」
「変なのかな?あんたは、ずっと探してたんだろ?自分で気づいてなかっただけで。それが、たまたま男の俺だったってだけでさ。同姓だったらよかった?でも、同姓でも同じ感情になったら?旦那さんに悪いと思ったんじゃないか?」
巽君に言われて気づいた。私は、勇作への罪悪感に囚われてしまっただけだ。
「うん。そうだよね」
ずっと探してたんだ。
欠けた部分を埋めてくれる存在を
それが、たまたま異性で
北浦巽だっただけだ。
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