たくさん、撮ろう【巽】

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たくさん、撮ろう【巽】

佐浜さんは、まだきてなかった。 俺は、少し離れた場所で見てた。 佐浜さんがきた、何か嬉しい。 ついたって連絡がきて、ついてるって言ったらキョロキョロしてる。やり取りをしてから、声をかけた。 不安そうに鞄を握ってるから、つい手を握ってしまった。 佐浜さんの中の不安を全部取り除いてあげたい。 並んで歩く時に手を握ってしまった。 佐浜さんの不安がまだ残ってる気がしていた。 佐浜さんは、握り返してはくれなくても拒みはしなかった。 何か、嬉しい。 佐浜さんの不安が消えた気がしたから手を離した。 俺は、饒舌に話した。普通が普通がって繰り返した気がする。 こうやって、二人でいる時点で普通じゃないのなんてわかってるのに…。 俺だって、芸能人で普通じゃないのに…。 何にこだわってるんだろうか? 佐浜さんが、普通なんて何でもいいって手を繋いできた。 俺も佐浜さんの手を握る。 普通なんてどうでもいい。 佐浜さんが、こうしたいからするだけだと言った。 俺もだ。佐浜さんの不安感を取り除く為ならどんな事でもしたい。 不安感がなくなって、佐浜さんの夢が叶えばいい。 佐浜さんが、お母さんになれたらいいのにな。 その夢を叶えてあげたい。 「SDって電気屋さんだよね?」 「うん。だね。」 「じゃあ、行こうか」 「うん。」 そう言って歩く。 人が増えてきたのに気づいて佐浜さんが、手を離した。 一瞬、繋がっていた心が離れたみたいな感覚に襲われた。 「ここだね。」 電気屋さんを見つけてはいる。 SDを探しに行く。 「いくつ買おうか?」 「わからないよ。」 「とりあえず、10枚かな」 「そんなにいる?」 「いるよ。」 俺は、SDを10枚購入した。 「買いすぎだよね」 「余ったら余った時だよ。」 俺は、笑った。 「ご飯買ってもどろうか」 「うん。」 俺達は、またホテルの行き道にあるスーパーに寄った。 並んで、お総菜を買った。 「持つよ。」 「うん、ありがとう。」 「うん。」 「君の声で、バレそうなのにね」 佐浜さんは、クスッて笑う。 「意外にいるんじゃない?こんな声の人」 「そうかもね。」 小さな声で話す。 俺と佐浜さんは、ホテルにもどってきた。 ホテルの部屋についた。 「先、食べる?」 「うん。」 そう言ってまたたくさんのお総菜を並べた。 「また、買いすぎたよね」 「夜も食べようか」 「うん。って、これもとるの?」 「とるよ。食べてるのとったら一緒に食べてるみたいだよね。」 「わかった。」 「俺のスマホで撮って、あんたに送るわ。」 「いただきます。待って巽君のいただきます。撮る」 「えっ、恥ずかしいな。じゃあ、いくよ」 「うん。録画押すよ。はい」 「いただきます。」 佐浜さんは、録画を止めた。 「じゃあ、次あんたのいただきます撮るよ。」 「いや、いらないよ。私は」 「いるいる。はい、どうぞ」 「いただきます。」 「はい」そう言って録画を止めた。 「はいってはいったよね?」 「編集すればいいよ。」 「まぁ、そうだけど。」 俺は、スマホを持ちながら一緒に食べる。 「うまいよ、これ食べてみ」 「うん、美味しい。ってやっぱり恥ずかしいよ。」 そう言って佐浜さんが、俺のスマホをとった。 「どうですか?」 「美味しいですよ。」 「それだけですか?」 「なんか、カリッとジューシーでって何だよこれ?」 「食レポですね。」 「ハハハ。これ役にたたないよな。」 俺は、佐浜さんからスマホをとった。 録画を止める。 「いらなかったな。」 「いるよ、楽しかったよ。」 「そっか、じゃあいっぱい写真撮ろうか」 「うん、撮りたい。」 俺と佐浜さんは、ご飯を食べる。 それを写真に撮ったり、動画に撮ったりを繰り返した。 楽しい、楽しい。 佐浜さんが、笑ってるのが楽しい。 一緒にいるのが、楽しい。 この日々を忘れたくない。 また、こうやって二人で会えるならどんな事でもする。 でも、無理なのはわかってるから ちゃんとおさめよう、この瞬間を この日々を…。
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