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何をしてあげられる?
気づけば、すぐにスマホを持ってる。
見てしまう気持ちは、すごくわかる。
それでも、俺は、何かしてあげたかった。
「歌詞作ろう。」
「どんな?」
「そのスマホの歌詞だよ。」
「見ちゃう事?」
「うん。」
「ちょっと待って、考えるから」
そう言って、俺は、考える。
「俺が、あんたにだけ贈る歌だから…。下手でも聞いてくれる?」
「うん」
♪魅了された玩具を大事そうに抱えて
取り上げれば子供のように君は 泣きじゃくっていた
目の前にいる僕より
玩具の方が大事かい?
玩具の話す言葉の方が
君を幸せにするの?
君の心を抉るような痛みしかくれない
玩具の声を聞くのか?
僕の言葉さえ届かないほど
魅了されているんだね
それに心を預けないで
それに囚われないで
君を愛す者の声だけを聞いて
笑い合って生きていこう♪
パチパチって拍手して、泣いてくれてる。
「下手だったよな。もっと考えた歌詞にした方がよかったかな」
「ううん。私を想ってくれた歌詞だってわかるよ。」
「もっと伝えたい事いっぱいあるけどさ。そんなものに振り回される人生はもったいないよ。」
「わかってるよ」
そう言って、泣いてる。
「例え、その中であんたが嫌われてたとしても目の前にいる人はあんたの事が好きなんだよ。」
「わかってるよ。」
泣かしたくないけど、わかって欲しいんだよ。
それをすぐ見ちゃうのとかやめて欲しいんだよ。
「それに囚われちゃうのは、本当によくないんだよ。」
そう言って、巽君はスマホを机に置いた。
「確かに便利だし、楽しいよ。だけど、それだけじゃないかな?
それは、あんたを抱き締めてくれる?それは、あんたの手を繋いでくれる?それは、あんたの涙を拭ってくれる?」
「くれないよ。」
そう言って、ポロポロ泣いてる。
泣かしたいわけじゃないのに…。
「ああー、もう。ごめん。酷い言葉ばっか言って…。あんたが、見てるものとかわらないよな。」
嫌になるよ。
優しくしてあげたいのに…。
「さっきの歌、録音していい?」
「いいよ。」
そう言って、俺はもう一度歌った。
「俺、どう言ったらいいかわからないけど…。旦那さんは、あんたと居るのが楽しいんだと思うよ。俺だって少しだけだけど、あんたといるの楽しいよ。だから、子供って言葉だけに縛られないでいいと思うんだよ。」
また、泣かせてしまった。
やっぱり、俺は酷いやつだ。
「もっと、自分の楽しいや好きに振り回されて生きてみなよ。結婚する前のあんたは、そうだったんじゃないの?」
「そうだった。」
そう言って、やっと笑ってくれる。
「これからも、そうしなよ。そしたら、何かかわるよ。結婚したからって諦めなくていいと思うんだよ。諦めなくちゃいけないとか、こんなのはダメだとか、自分を縛りつけて追い詰めると…。あんたの中の不安感がでるんじゃないのかな?」
「そうだよね。常識に囚われすぎてるのかもしれない。」
そう言って、スマホを机の上に置いた。
「当たり前なんて、みんな違うもんだよ。例えば、あんたは目玉焼きに何かける?」
「醤油かな?」
「俺も醤油派だけど。今はソースかけてる人だとするだろ。俺にとって目玉焼きはソースをかけるのが当たり前。でも、あんたは醤油をかけるのが当たり前。俺達は、一生混じり合う事なんてないんだよ。だから、こうするのが当たり前なんてないんだよ。」
「そうだよね、ないよね。」
「だから、結婚だって。子供が居るのが当たり前、家に居るのが当たり前、料理は妻がするのが当たり前とか、当たり前に当てはめる必要なんてないんだよ。」
「やっぱり、私。当たり前に囚われてきたんだよね。」
そう言って、また泣かせちゃった。
「当たり前なんて、皆違うもんだから…。誰かと比べて生きる必要なんてないから」
そう言って、俺は佐浜さんの頭を撫でた。
佐浜さんが辛いなら手を差しのべてあげたいんだ。
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