帰宅と電話と勇作と

1/1
前へ
/66ページ
次へ

帰宅と電話と勇作と

家についた、服を着替えて顔を洗った。 タオルで、髪を拭きながら巽君にメッセージを送った。 [つきました。今日は、本当にありがとう] リリリーン ビックリして、スマホを足に落とした。 いたっ 「もしもし……イタッ」 小さな声で言ったのに、巽君が気づいた。 「何か落ちてきた?怪我した?」 「大丈夫、大丈夫。スマホが足に落ちただけ…」 「それ、スゲー痛いやつじゃん」 「やったことある?」 「あるある」 タクシーから強く感じていた不安感が、一瞬で消えた。 「顔面にあたってもいたいよ。一回、目にあたって角膜に傷いってた。」 「マジで!!それヤバいね。顔面は、わかる。鼻とか普通に痛い」 巽君が、笑ってくれるだけで安心できる。 この声が、いいのではないのだろうか? 「あのさ、ありがとう。声かけてくれて、ちゃんと伝えてなかったから」 「こっちこそ、また来てくれてありがとう。あの日、あんたがこなかったら一生会えなかった。」 「うん」 誰かに、優しくされる事が嬉しいって感じるの久々だった。 「じゃあ、ゆっくり休んで。俺も休むから」 「おやすみ」 「うん、おやすみ」 電話を切った。 巽君と話すと不安感が消え去る。 子供がやっぱり欲しいと思う。 だけど、できない運命なのかもしれない。 不安感が襲ってくる私は、親にはなれないのだろうか? 子供をつくる為だけに結婚したのだろうか? それなら、勇作じゃなくていいのではないか ああ、もうこんな事ばかり考えてる自分が嫌になる。 好きな事ってなんだっけ それをしてたら、私は子供に囚われないんじゃないのだろうか? 急に眠気がやってきて、ソファーで眠ってしまった。 目を覚ますと、朝だった。 ゆっくりと起き上がった。 寝過ぎちゃった。 顔を洗って、歯を磨く。 朝御飯を食べる。 リリリーン 「はい」 「起きてた?」 「はい」 「今から、帰ろうと思って」 「気をつけてね」 「うん、じゃあ。また、家についたらメッセージ送るから」 「うん、待ってるね」 巽君からの電話だった。 朝御飯を食べ終わって、お皿を片付ける。 私は、一人でいる事ができるようになるかもしれない。 そう、思った。 「ただいまー。」 「おかえり」 お皿を洗い終わると勇作が、帰宅した。 「一人で、いれたんだって」 「うん」 「よかったね」 ニコニコ笑ってくれる。 巽君の事をいつか話せるのだろうか? 今は、無理だ。 勇作は、家にあがった。 何も気づかない。 気づいても、何も言わない。 そんな気がしていた。 「安心したよ。心配だったから」 「ありがとう」 抱き締められる。 私も、ホッとしていた。 頑張れたのは、彼のお陰だ。 やっぱり、いつか話したい。 それからの私の日々は、あっという間に過ぎていった。 巽君とは、帰宅した日に[ついたよ]ってきたメッセージと[おやすみ]だけを最後にやりとりも頻繁ではなくなっていた。 たぶん、巽君も忙しいのがわかった。 でも、二日に一回更新されるsnsのお陰で巽君が元気で頑張っているのがわかった。 芹沢龍の舞台の日、彼はくるのだろうか? 不思議に思いながらも、舞台は明日に迫っていた。 緊張して、眠れない。 芹沢龍を見れるなんて、嬉しい反面、行ってない場所への恐怖心も抱えていた。 どうか、明日無事に乗り越えたい。 「りーちゃん、嬉しい?」 「うん」 「よかったね」 「うん」 「じゃあ、俺は寝るから。りーちゃんも早く寝るんだよ」 「ありがとう」 勇作は、ムギ姫を連れて寝に行ってしまった。 夜中まで、起きてしまっていた。 不安感が襲ってきては、しばらくしたら静まった。 大丈夫かわからないけど、明日頑張ってみよう。 私は、そう決意をして眠った。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加