時々ね

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時々ね

「巽君、私ね。時々ね!息が出来なくなって悲しくなる瞬間があるんだ。メンタルがやられてるんだと思う。だけどね、考えないように出来なくてね」 「うん」 「こないだ、友達の結婚報告を見たの」 「うん」 「おめでとうって送ったんだけどね」 「うん」 「どうせ、すぐに赤ちゃん授かるんでしょって思っちゃった私がいたんだ」 「そっか」 「駄目だよね!私、酷い人間だよね。ちゃんと人を祝福出来ないなんて最低だよね。駄目だよね」 佐浜さんが泣いているのがわかる。 「いいんじゃない」 「何で?」 「俺もわかるよ!jewelで結果出せなくてさ!同じように歌手と俳優やって、すぐうれちゃったやつとかいたり!だいたい同時期にデビューした俳優仲間にめちゃくちゃムカついた時もあったよ!悔しくて、悲しくて、苛々してたよ。もちろん、同じドラマや映画に出るなら仲間だって思ってるよ!いいもの作ろうぜって!だけど…。やっぱり、悔しい時はあったよ!祝えない時もあったよ!でもさ、それを駄目なんて俺は思ってないよ。だって、あの悔しさや悲しさがあったから…。jewelは、今、沢山の人に愛されるバンドになったわけだから…。俺だって、それなりに有名になって来てるから…。あんたが、今、抱えてる気持ちあったらいけないわけないだろ?だって、凄く凄く望んでるんだろ?心が壊れるぐらい望んだんだろ?」 「巽君」 「だったら、仕方ないだろ?俺だって、jewelが全然うれなくて頭おかしくなるぐらい凹んだよ!だって俺は、jewelのメンバーとうれたかったから」 「そうだよね。私だけじゃないのに…。ごめんね」 「私だけになったっていいんだよ!望んでるんだから、仕方ないだろ?手放す事は、簡単なわけないよ。そんなに苦しんでるんだから…。俺が話し聞ける時は、聞くから!ゆっくり前に進んで行けるように協力するから!だから、心配すんなよ」 佐浜さんは、泣いている。自分じゃどうにも出来ない不安定な気持ちや苦しみや痛みに押し潰されそうになって泣いているのがわかる。 「巽君、私ね!やっぱり、私ばっかりこんな風だって思っちゃうんだよ。世の中は広いとか、悲劇のヒロインになっちゃ駄目とか頭ではわかってるんだよ。でもね…」 「頭と頭がバラバラなんだろ?正当な理由つけて、その気持ち見ないようにするのやめろよ。無理なんだよ!どうしても、欲しいものは人間は諦められないんだよ。だから、もう自分を責めるなよ!六花さん」 名前を呼んでしまった。佐浜さんから、何の返事もこなくて…。 どうしていいかわからなくなった。 「あー!だから、あんたはそのままでいいんじゃねーか!悲劇のヒロインでもさ!何でもさ、俺の前だけなら許してやるから!だから、気にすんなって!外野の声とかさ!なっ?」 「フッ、アハハ」 「な、な、何だよ」 「ごめん!だって、急に巽君。テンパって!焦りだしたから…。そんなに名前呼んだの恥ずかしかったの?」 「な、名前?何の事だよ」 「さんづけじゃなくていいよー」 「はあ?名前何か呼んでないし」 「フフフ、楽しいね」 佐浜さんが、ニコニコ笑ってるのがわかる。 「あんたが、楽しいならそれでいいよ」 「巽君」 「何だ?」 「どうして、世の中には手に入らないものがあるんだろうね?」 「そうだな!俺の仕事でも、夢破れて一般人になった人とかいるんだよ!」 「うん」 「望む場所と手に入る場所って違うのかもな」 「巽君は、叶ってるでしょ?」 「いや!俺は、違うよ」 「違うの?」 「うん!俺は、jewelで生きて行きたいって思ったんだよ!だけど、事務所は駄目だってさ!jewelだけじゃ厳しいって言われてる。俳優とjewelとやらないと、難しいんだってさ!実際、まだまだjewelだけでご飯食べれるほど稼げてないんだよ」 「そうなの?」 「そうなんだよ!あんたには、どう見えてるかしらないけどさ」 そう言って俺は、気付いたら佐浜さんに話してた。北浦巽として俳優で名を売らなければjewelを有名に出来ないと言われた。言われるがままに、俳優をやった。望む場所と手に入る場所は違う。どんな人もきっとそれは、同じなんだと思う。
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