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目を覚ますとまたもや知らない所だった。
そうか、僕は神々によって転生、というものをさせられたんだっけ。
「頑張って生きて、か……」
転生の間際、セレーネに言われたことを思い出す。
その言葉は、まるで喉に刺さった小骨のように僕の何かに突っかかっている…気がする。
まぁ痛くはないと思う、ただの違和感。
いや、今はそんなことよりもここは何処なのかを知らないといけない。
僕は目を覚ますまで目の前の大きなベッドの上に寝ていたみたいで咄嗟に床に落ちたものの、僕がここにいて持ち主にバレたら何をされるか分からない。
そもそもこの家にいるのすら不味いのではないか。
僕でも分かる、ここは僕なんかがいていい場所じゃない、金持ちの家だ。
天蓋付きの大きなベッドに大きなクローゼット、ソファ、机、全てキラキラと輝いていて素人でも一目で分かる高級品だ。
早くここを出なければ。唯一の出口である扉を開き、脱出を試みる。
扉の向こうに続く廊下も驚くほどに長くて床にはカーペットすら敷いてある。
踏んでもいいものかと悩んでいて背後の気配に気づかなかった。
「お目覚めでございますか。」
「!?」
さっきまで誰も部屋の中に居なかったのにいつの間に………
20代半ばであろう青年が僕をじっと見つめる。
この人はここのお屋敷に勤めている人なのだろうか、今のところは敵意は見られない。
何とか見逃して貰えないかな……
「あの…ここのお屋敷の方、ですか?」
「いえ、私は本日から執事として貴方様にお仕えする者でございます。」
執事……?執事ってよく物語とかである使用人の…?
「…………もしかして、神様……セレーネ様が僕にこの家を?」
「この邸宅は女神セレーネ様が貴方様への贈り物として与えられたものです。私も同様に、貴方様のお世話を仰せつかっております。」
そう言って一礼するものの顔や声から表情が一切感じられない。
セレーネ様が僕の為に寄越したというならそこに彼の意思はないだろうし、もしかしたらこの人は人間ではないのかもしれない。
そして僕の執事だというこの人は僕に大して興味がないのだろう。まぁ、別にいいけど。
「……いきなりこの世界に来たので僕は何も知りません。生きていく上に必要なことは教えてください。」
「承知致しました。まずは如何なさいましょう。」
「この世界のことを教えてください。もし読み書きが日本語で通じないなら文字も。一般的に生きていく上で最低限の事さえ教えてくれれば大丈夫です。」
生きていく上で最低限。
それさえ手に入れれば後はどうでもいい。
どちらにせよ自分から外に出るつもりも誰かに会うつもりも更々ない。
日本人であった時……前世ではいつもあの部屋から出てどこかに行きたかった。
だが今は自由にどこにでも行けるはずなのに行けない。いや、行かない。
まぁ外に出たかった時期もとうに昔のこと。今は心底疲れてしまった。
今世くらい、自分から引きこもりの生活を送っても大丈夫だろう。
「承知致しました。」
恭しく頭を下げるこの男の人の表情にはやはり感情が見えない。
だが自分のすべき事はきちんとこなしてくれそうだ。下手に同情的な人達よりかは信用出来るんだろう。
とにかく、改めてここは僕の家らしい。
ならばもう少し眠っていても問題はないだろう。時間はたっぷりあるのだから。
そう結論付けて先程までいた寝室へと向かう。
そうして、異世界での僕の生活が始まった。
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