転生

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異世界に来て何ヶ月……いや、何年経っただろうか。 最初は知らない場所に知らない物で少し不安だったものの、読み書きは大方日本語のままだしこの世界のこともとりあえずは理解出来た。 ここはこの世界で1番大きな国、ファランディエール王国。 そして僕がいるここはヴァラレア、その王国の外れの辺境の地らしい。 そんな王国の外れとはいえ勝手に住んでいいものかと思ったがどうやらこの付近は非常に強い魔物がしかも大量発生しているようで昔から近くの村の人はおろか、誰も近づかないらしい。 少なくとも今生きている人間の中ではこの地に踏み入った者はおらず、こんな立派な邸宅があった所でいつからあって誰の物なのか誰も分からないそうだ。 でも、今のところ魔物は見かけないし噂のような酷い土地ではないように思える。セレーネ様が何かしたのかもしれないが僕に害がないならまぁそれでいいかと思ってしまっている。人が来ないっていうのも好都合だし。 とにかく、今は料理や洗濯、掃除なんかも覚え基本的に自分でやれることはやっている。 最初は身の回りのことをしてくれていたあの執事も途中で見なくなった。 ご飯の用意も風呂の準備も数ヶ月もあれば手伝いが無くても出来るようになったから途中で断ったらいつの間にかこうなっていた。 まぁ、執事というのは流石で呼んだら出てくるし自分の手の届かない範囲の掃除は恐らく彼がやっているんだろうけど。 一通りは教わったお陰でこの世界でもとりあえずは生活出来るようになったし、食料や必要なものは何故かすぐに補充されるから困らない。 最初に見た時はこれが神の力かと感心したけど人間慣れるもので今は神の恩恵を感じつつもゆっくりのんびりな異世界ライフを送れている。 そして、何度目かの秋が過ぎ、冬がやってきた。 この国も春夏秋冬と四季があるみたいでそれは窓からの景色で分かる。 ヴァラレアの森一面が雪で包まれるこの季節が1年でも割と好きな季節だったりする。 寝室の窓に張り付いてぼーっとする時間が多い。 そういえばこの屋敷の中で全てが完結するものだから未だ外に出たことがない。 まぁだって本当に困らないんだからわざわざ出る必要もないかって思って今まで気にもしなかったけどそろそろ生活にも慣れて外が気になり始めている。 生前……日本にいた時は中学卒業後は家から出ることはなかったし。窓が無いこともなかったけど外は住宅街でアスファルトしか見えないんだから大して興味も抱かなかった。 まぁ何が言いたいかっていうと、外に出てみようかと思っている。 別に外に出ては駄目って言われてはないし流石に何年も屋敷だけにいる訳にはいかないだろう。 善は急げ、という言葉もあるくらいだしたまにはすぐに行動してみようか。 誰もいない廊下を進むのにももう慣れた。だけど今日はいつもと違う道と目的がある。 それだけで少し変わるものなのだなぁと感心していると中々来ることがないエントランスホールに到着する。 靴はずっと用意されていた。 外に出ていいということだろう。でも数年前の靴って入るのだろうか…… 中学卒業からほとんど靴を履くことはなかったけどそれでも足のサイズは変わるし合わない靴は痛いということくらいは分かる。 恐る恐る足を入れてみると恐ろしいくらいにぴったりだった。 これもセレーネ様の力なんだろうか。まぁ、履けるのならそれでいいか。 玄関の扉を開くと窓から見た通り外は一面の雪景色だった。 一瞬、厚着するべきだったかと後悔したが不思議と寒さを感じない。 この世界では見た目の変化だけで気温は変わらないのだろうか。 何にせよ、服を着込むのは好きじゃないし適温なのは有難いことだ。 この世界に来て常識とは違うことが多々起きるがその度に深く考えない方がいいと学んだ。 どちらにしよ、あの部屋で一生を過ごした僕が常識を考えても意味がないだろうし。 ザクザクと雪の中を進んでいく。 久しぶりのフローリングやカーペット以外の床の感触。 これでも浮かれていたみたいだ。気がついたら辺り一面真っ白でここがどこか分からなくなってしまった。 うん、困った。 寒くはないとはいえ雪の中で寝たいとは思わない。 ここに来て僕は随分贅沢になってしまったんだ。ちゃんと自分の部屋のベッドで寝たいと思うしお腹が空いたらご飯も食べたい。 そろそろ帰らなきゃな。 くるりと木々の間を見渡す。どっちから来たんだっけ。 その時、近くからガサガサと音が鳴る。 木々を掻き分けているような自然には鳴らない音。 まさかここに動物がいるとは思わなかった。 でもここに住んでる動物なら屋敷の方向も分かるかもしれない。異世界の動物、意思疎通出来ないかな。 音のする方向をじっと見つめる。 段々音がこちらに近づき、音の正体が顔を出す。 「ひ、人……?」 あ、これ僕の言葉じゃないからね。 音の正体、動物じゃなかったみたい。
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