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「ヴァラレアに人が……!?しかもこの極寒の中薄着で……魔物に襲われることもなく……」
何やら、目の前の人らしき人がブツブツと呟いている。
あぁ、そういえばここ未踏の地だっけ。住んでるって言ったら不味いのかな。
「ねぇ君……どこから来たの?」
ブツブツ言ってる人の後ろからもう1人が顔を出す。前の人よりモコモコだしなんか豪華な服を着てる。
金色の髪がキラキラと輝いてるけど本人は少し震えているし顔も青白い。
「どこから……そこから?」
どこからって言われても絶賛迷子だから分からない。まぁ歩いて来れる距離ってことはそこら辺と言っても間違いないだろう。
「なっ……馬鹿にしているのか!?ここは前人未踏の魔物の地…ヴァラレアだぞ!?」
ブツブツ言ってた人が今度は何かギャーギャー言ってる。びっくりして思わず後ずさってしまった。これ、逃げた方がいい?
「やめろ、ベン……怖がってる。」
「ですが……!」
「ねぇ君。どこから来たか分からないの?名前は?」
名前、名前。
なんだっけ、僕の名前……そうだ、確か…日本では本郷 凛だった。
「ノエル……ノエル・フィンレー。」
口をついて出てきた名前は頭に出てきた名前ではなかった。しかしその名前は驚く程自分の中にストンと落ちてきた。
あぁ、そうか。僕は転生したんだ。
本郷 凛はもういない。僕はノエルとして、この世界で生きていかなければならないと改めて実感した。
「!フィンレー………!…いや、ノエル。君本当にどこから来たか分からない?」
言っていいものだろうか。
このヴァラレアに住んでるって。
悪い人ではないだろうけど、僕実際は不法侵入みたいなものだしセレーネ様に屋敷を貰いましたとも言えないし……
あと、キラキラしてる人の横で睨んでる人が怖い。
「……秘密、守れる?」
「秘密?」
「僕がどこから来たのか、秘密にして何もしないって約束してくれるなら教えられる」
「お前!この方を誰だと…!」
「ベン、口を閉じていろ。……ノエル、分かった。約束しよう、だから教えてくれないか?」
まぁ約束してくれるならいいか。
こくんと頷くとすぐ下の地面を指差す。
「ここ。」
「え?」
「ヴァラレアに住んでる」
「は、え?この魔物の地に?」
「屋敷から初めて出たら迷子になってしまって…」
「屋敷!?こ、ここに屋敷があるのか!?」
ぐい、と距離を詰められて思わず一歩後ろに下がる
やっぱりちょっとだけ怖い、人に会うのとか何年振りかって話だし、そもそも日本でだって人と話すことはほとんど無かった。
あと、何より久しぶりに動いたから疲れた
あ、そうだ
「………執事さん。」
「はい、御用をお伺いします」
案の定、声を掛けた瞬間後ろに彼が現れる
やっぱり人間じゃなかったんだな
「……疲れました、僕を屋敷まで運んでください」
「承知致しました」
「ちょ、ちょっと待って!」
さて、運んで貰おうかと思ったら慌てた様子のキラキラの人に呼び止められる。
「その……恥ずかしながらこの森で迷ってしまったんだ。どうか君の屋敷に泊めてくれないだろうか?」
「……森の入り口まで連れて行きましょうか?」
「いや!その、実は麓で魔物に襲われてしまって少し怪我をしてしまったんだ!この近くの村に宿も無くてね……一晩だけ、助けてくれないか?」
んん……どうしよ
確かに肩を負傷しているみたいで薄く血が滲んでいる。怖い人に至ってはボロボロで所々血も付いている。
屋敷の部屋もほとんど空いているから泊められない訳でもないし……
「…お部屋の用意、出来ますか?」
「…可能です。お連れ様も共に移動なされますか?」
「……はい、お願いします。」
目の前の2人が驚いたようにこっちを見てくる
そんなに見捨てるような人間に見えたのだろうか……別に目の前で困ってる人に頼まれて断るような人間ではないつもりだけど
「あ、ありがとうノエル。この恩は必ず…」
「…一晩だけね」
「それでは、参りますので皆様もう少しこちらにお寄りください」
彼の言葉に2人が少し近づく
そして気がつくと目の前の真っ白な森から見慣れた屋敷の前に到着していた。
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