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コンシェルジュリーを出ると、そこはもう見物人であふれていた。
たくさんの平民が押し寄せて、少しでも私の顔を見ようと好奇の目を向けている。
「早く死ね、オーストリア女!」
「裏切り者のペテン師!」
「くたばれ、贅沢女!国を潰した娼婦め!」
どんな言葉を浴びせかけられても、私は少しも傷つけられはしない。だって何一つ悪いことなんてしていないのだから。
彼らが私を憎むのは、私が大オーストリアのハプスブルグ家の皇女として生まれ、身分に合う結婚をし、当たり前の生活を享受してきたからだろう。
それが今ではザンバラに切られた髪を白いボンネットで隠し、肥だるを運ぶための荷馬車に乗せられ、パリの市街をゆっくりと巡る見世物になり下がっている。
何も持たない彼らが喝采を叫ぶのは仕方がないことなのだ。
特権階級の苦労も知らず好き放題に騒ぐ彼らを、私は許そう。
今はただ、王妃として死ねればそれでいい。
精一杯胸を張って背筋を伸ばした。
見上げた空はどこまでも広く青く、これなら高く登っていけるだろうと思った。
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