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※※※
【アルトリスの街・市街地】
「コラーッ‼」
「待ちやがれーっ!!」
「バラバラにしてモンスターの餌にしてやるッ!!」「やなこったーっ!!」
今、俺は追われている。
なぜかって?
そりゃもちろん、盗みを働いたからだ。
ヒイコラ言いながら逃げるオレの後ろを大多数のゴロツキ連中が唾を飛ばしながら、聞くに堪えない罵詈雑言を飛ばしながらしつこく追ってくる。
なぜ追われているのかというと、酒場の女給に粉を掛けてるつもりの集団で女給を囲み、あわよくば『お持ち帰りする』算段をつけていたゴロツキどもから財布をすり取り、これでもかと煽り倒した末に財布の中身を酒場中にばら撒き、怒り心頭のゴロツキどもを酒場から引き離す形で街中を駆け回っている次第である。
ここはトリコローディ王国が一角、豊かな土壌広がるリコリス地方の玄関口であり、海を渡ってあらゆる外国から大型船がやってくる港町アルトリス。
良くも悪くも人が集まる場所であり、喧騒と喧嘩と賑やかな逃走劇が日常茶飯事な、ある種の物騒さを売りにしている街でもある。
アルトリスの街には多種多様な人種が集まる場所である。彼らが生業とする職業のためのギルドホールと倉庫街、そして、酒場をはじめとする客商売の建物が立ち並んでいる。
街が作られた最初の頃は、平坦な土地に綺麗に区画分けされた建物が並んでいた、どこにでもある港町だったそうだが、今ではその面影は無いという。
沢山の人やモノがこの港街へと流入してはその分外部へと流出するようになり、その都度、新入りのお金持ち連中のための新しい区画が作られたり、金が無い連中が潜む地区では、今ある建物の上に積み重なるブロックのように建物がさらに建てられ、その一帯だけ日が差さない『暗闇地帯』と化したりと、光と闇をしろしめす二極化された場所と化している。
あらゆるものが集まる故に、表情が明るい善人と幸が薄い悪人もこのアルトリスの街には存在していた。
ま、今回の場合はおれもゴロツキ連中も後者にあたるがな!
今生でのおれは、男として生まれてすぐにみすぼらしい孤児院の前に捨てられた。
季節は冬。しかも、ぼろい薄布一枚に包まれたまま寒空に置き去りにされたもんだから、寒さとひもじさで死にそうになっていた。
「神のバッキャロー!! これで死んだら詐欺罪で訴えてやる!!」
死を覚悟したおれの心の叫びはそのまま寒さにかじかんだ泣き声として寒空に響き渡った。
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