進路希望調査

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進路希望調査

今のままでいたい ずっとこのまま子供でいたい 「進路希望調査とか、教師が安心したいためだけの紙だよな。」 帰りのホームルームで配られた進路希望調査書の話だ。 高校二年生、十六歳。まだこの世に生を受けて十六年しか経っていない若者に今後の人生を決めさせるとはなんという理不尽。不条理。四面楚歌。 最後はちょっと違うか。 「安心って?」 配られて一瞥しただけでとっととファイルに入れた紙の存在を思い出す。A4サイズの真ん中に四角がいくつか並んでいた紙。氏名を書くところがあって、説明文が二、三行ほどあった。 「進学なり就職なり、とりあえず路頭に迷わないように見張る為のもんだろ。」 安心とか、見張るとか、大人のエゴだとか、コイツはそんな風に思っていたんだ。 「真吾は路頭に迷いたいのか?」 「うーん、どうだろ。」 「俺は進学かな。親もそれが希望だろうし。」 先月の実力テストの結果を思い出す。順位を見せたら親は喜んでいた。安心していた。自分たちの育て方が間違っていなかったんだと安心していた。ああ、こういう事か。 「金のある家はいいな。」 「奨学金狙いの大学だよ。日本全国で探せば何とかあるだろうと思ってる。」 「頭の良い奴はいいな。」 「テストの順位がたまたま良いだけで、それが実生活で活かされる事はほとんど無いよ。それよりも一人暮らししている真吾の方がよっぽど凄い。」 「性格の良い奴はいいな。」 「さっきから同じ様な事しか言ってないぞ。」 「んー?そうか?」 受け答えもそぞろになる理由は進路希望調査書が原因だ。 一枚の、計量器に載せてもほとんど針が動かないだろう一枚の紙に、真吾は押しつぶされそうになっている。 こころなしか猫背だし。 あ、これは元々か。 「進学する金も頭も無いし、就職するコネもスキルも無い。俺、詰んでるな。」 真吾が珍しく弱音を吐いた。いつも楽しそうで、休み時間は運動場でサッカーしているコイツが。宿題を忘れても、近所の犬にプリント食べられたのなんだの言い訳してクラスメイトを笑わせるコイツが。俺の家とかテストの順位とか関係無しにズカズカ踏み込んできたコイツが。 「一つだけ道があるよって教えてもいい?」 「え、なになに?」 「でもこれ、真吾には難しいかもな。」 「えー難しいのかよ。俺頭悪いことしってんじゃんか。」 「頭を使うことじゃないよ。気持ちの問題。」 「気持ち?」 「俺に永久就職するってのはどう?」 今のままでは痛い ずっとこのまま子供じゃ居られない 大人になりたい 大人になろうよ 一緒に
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