アイス

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アイス

小学生の時、人が自動車に轢かれる瞬間を見た。 倒れこんだ人とは別に、その場に立ったまんまの人がダブって見えた。 轢かれた人は一人だけなのに。 それから何か自分の身の回りに何か起こったかというとそんなことは一切無く平凡に高校卒業し、平凡に平均点な大学に入り、平均的なら彼女の一人や二人いるかもしれないが、そこは残念ながら平均以下の為、彼女ができるわけでもなく、自堕落に暇を謳歌している。 なんで、あの事故のことを思い出したんだろう。 もう残暑と言っていいはずの暦が、いや自分まだやれますから!みたいなテンションでギラギラと燃えている。風はあるもののそよ風じゃあその熱を巻き上げるだけだ。木陰が濃い。太陽がどんどん昇っていく。 あの事故があった日もこんな日だった、気がする。 LINEが鳴った。 「今からお前んち行ってもいい?」 鳴ったと同時に、玄関のチャイムも鳴った。 俺は朝からほぼ変わっていない体勢を起こして、玄関を開けに歩いた。 「コンビニ行ってくじ引いたらアイス当たったんだよねでも俺アイス買ったばっかりだっつーのって思ってなら相澤にあげよって思って来たんだけど、なんか用事あった?」 もう靴を脱いで、アイスを口に咥えながら俺の読みかけの雑誌を奪ってベッド脇に腰掛けながら、昆野は一息でこれを言った。 最後の言葉が、せめてもの遠慮になっているのかもしれないが、ここまで行動と言動がまったく一致していない人間というのもなかなかいないだろう。 「アイスありがと。今暇だったからちょうど良かったよ。」 差し出されたアイスは、とても汗をかいていた。外気温の高さを思い知る。 「15時からバイトなんだけど家に帰るとぜってー寝ちゃって遅刻するからあそれなら相澤んちいって起こしてもらえばいいじゃんって思ったんだよねおやすみ。」 今度は俺に確認する間もなくベッドの上で寝た。さっきまで口に咥えていたアイスはもう無くなっている。バイトまでの繋ぎに来ただけか。と、ちょっと寂しくなった。 校内で会えば挨拶する程度で、学食で会えば一緒に座って話す程度。学外で会えば会釈ぐらい。アパートの場所は前に学食で話したことがあった。大学から一番近いボロアパートの2階の左端。小さいベランダに大きな観葉植物があるからすぐに分かるんだ。と言ったことがある。ただ、その時は昆野はデッカイ唐揚げを一口で食おうと大きな口を開けることに必死になっていたから聞いていないもんだと思っていた。 わざわざ会いに来てくれた。お土産を持って。と内心浮かれていたのだが、実は、ただの休憩所扱いだったということが分かり内心とても凹んでいた。 俺は昆野の方を振り返る。初めて入る人の家でよくここまですぐに寝れるもんだなぁと関心している。誰にでも話しかけて誰からも好かれる、句読点のない話し方をするのも、遠慮しているように見えて図々しいところも、俺からすればすべて羨ましい。だって俺はそうなれないから。 アイスのゴミを片付けて、読みかけの雑誌を手に取った瞬間、体が凍った。 正確には凍るわけはない。ただ凍った様に動かなくなってしまった。だってこんなの見たら誰だって動けなくなるに決まっている。 寝ているはずの昆野の上に上半身だけ起こした昆野がいたのだから。 体が少し透き通っていて、目が虚ろで何処かを見ているようでどこも見ていない。 あの時と同じだ。 あの事故を思い出したのはこの時の為なのか? どうしよう、寝ている人に話しかけたらその人は夢の中から出られないとか聞いたことがあるけれどもそれってこの状況でも当てはまるのかな、なんて頭の中でごちゃごちゃ考えていたら、 「あ相澤もう時間?」 と、透き通った昆野が聞いてきた。目の焦点はもう合っている。 「い、いや、まだだけど。」 「あそう時間になったらよろしく。」 と、透き通った昆野は寝ている昆野に覆いかぶさるようにして一つになった。いやこれは元に戻ったのか? とりあえず元に戻ったのならば問題ないかと思ったが、小心者の俺はスマホで心霊現象のサイトを漁っていた。気が付くと、昆野のバイトの時間になり、恐る恐る昆野を起こすといつもと変わらない様子で、 「あマジありがとすっげーなんかスッキリした気分だわ今度からもここ来ていいそういえば相澤って何アイスが好き?」 いつもと変わらない昆野だった。 モナカ系が好きと伝えて、昆野はバイトに行ってしまった。 友人のとんでもない秘密を握ってしまった。本人は秘密ともなんとも思っていないかもしれないが。 今の言葉は少々訂正する。 友人のところを、少し気になる人にしていおいてほしい。
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