ホームセンター

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ホームセンター

「明日なにすんの?」  明日から始まる連休を前に浮足立った同級生とは対を成して整然と、それでいてさも興味がなさそうに興味津々に問いかけてこられた。  部活動に精を出すわけでもなく、恋愛ごとに現を抜かすわけでもなく、学生の本分である勉強に根を詰めるわけでもなく、いつもの道をいつも通り、いつもの奴と歩いている放課後の帰り道。ただその道を歩けば、深緑、真っ赤、真っ黄色、ほどほど茶色。スペインのトマト祭りでも、5色展開される湖でもなくここは日本のド田舎で、ただの通学路にもかかわらず、だ。それなのに、当たり前の風景なのに、当たり前に通っている道であるのにも関わらず、16回目の紅葉シーズンには去年と同じ感想を持たざるを得なかった。 「めっちゃ、キレイじゃん。」 「それ、去年も言ってたよな。」  隣りを歩くこいつは、クラスメイトで家が近所で、小中高と同じ学校で、幼馴染というにはくすぐったくて、腐れ縁というには腐っていはいない。  俺たちは朝よりは落ち葉の片付けがされている歩道を歩く。悔しいが俺よりも10cmはある身長差だが、歩く歩幅は俺に合わせてくれているのか、もともと少々トロい奴だからなのかちょうどよい。俺はあえて、落ち葉の積もったった歩道の脇で足を踏み鳴らす。葉の細かくなっていく心地よい音がする。サクサク、ザクザク、サクサク、ザクザク。赤も黄色も茶色もごちゃ混ぜな色になる。でもそれは決して汚くはない。まるでモザイク絵みたいだ。 「で、俺の質問は無視する系?」 「無視はしていない、考え中なんだよ。」 「どーせ、予定なんてないんだろ。」 「わかってんなら聞くなよ。」  一通り、踏みしめてからまた歩き出す。その間、こいつは待っていてくれている。急かすわけでもなく、嫌な顔をするのでもなく、いつものことのようにただそこに立っている。非常に心地よいが、少々見透かされている気もして気恥ずかしい。こいつは同級生なのに、時々大人のように見える。 「あ、ホームセンターには行きたいかな。」  急に思いついて言った。ずっと下を向いていたから次は上を向きながら歩いている。きれいな水色ときれいな黄色があまりにきれいすぎて合成写真のブルーシートに見えた。 「好きだよな、ホームセンター。」 「また必要なもんがあるんだよ。」 「よくやるよな、観葉植物の世話なんて。」 「お前もやったらハマるって。毎日毎日少しずつ変わっていくんだって。めっちゃ面白いって。」  何を隠そう、つい最近趣味ができた。ホームセンターの隅っこの隅っこで枯れかけ寸前、持ってけドロボー的な値段のパキラを買ってから、飼い始めて、世話すればするほど元気になるのが目に見えてそれから徐々に種類を増やしている。  前にこいつを部屋に上げたら、「ここはいつから温室になったんだよ。」と揶揄された。  もともと俺は植物が好きなんだと思う。親も何かしら庭で育てているし。マンション暮らしのこいつからしてみてばかなり異質に見えるんだと思う。 「枯れかけの植物を見ると、何とかしなきゃなって思うんだ。」  園芸店で大事に大事に育てられている観葉植物も好きだが、ホームセンターで早く売れろ、売れてくれと言わんばかりのおざなりな観葉植物を見るとなんかもう、すぐにレジに進んでしまう。もちろん高校生の身分で車を持っているわけではない。チャリで行けるところまで、チャリの籠に入る量だけという制約は設けている。しかし前に8号のドラセナを買ったときは籠に入りきらなくて後ろの荷台に括りつけてもらった。うちに持って帰る途中でこいつに出くわして笑われた。なんでも俺の頭の上から葉っぱが生えているように見えたらしい。よりにもよってこいつに見られるとは。 「じゃあ、明日もホームセンターに行くのか?」 「んー、ここらへんのはだいたい回っちゃったからなあ。そろそろ電車で遠出してもいいかな。」 「リュックにまたあの植物背負うのか?」  そう言いながら、例のドラセナを運んでいた時のことを思い出したのであろう。顔がニヤニヤしていた。 「そこがネックなんだよな。」  まあ、そこは袋なり、手持ちなり、なんでもいいさ。行ったことのないところに行くのがまた醍醐味なのだ。 「ここにさ、」  いきなり話題が変えられた。俺は大槻の方を見る。 「5時間目の抜き打ち小テストの山張り外して0点叩きして可哀そうな奴がいるんだけど。」 「それは、日ごろの授業をどう受けているかだろ。」  真面目なことを言っているが、実は俺もギリギリ赤点回避だった。 「そのせいで、物理のノートを準備室に運んだり、他のクラスに伝言頼まされたりしている奴がいるんだけど。」 「まったくもって、自業自得だよな。先生だって0点取る奴がいたなんて逆に可哀そうだ。」 「心身ともに参っている奴がいるんだよね。」  大槻はこっちを向いて話してはいない。こちらに相槌を求めるように淡々と話している。相槌を求めるということは、理解を求めているのかもしれないが、俺はまだ大槻の意図が掴めない。 「で、何が言いたいんだよ。」  こいつのまだるっこしい言い方は今に始まったことではないが、なかなか本性が掴めない奴であるということを再認識する。 大槻はやはり、こちらを向かない。まあ、向いたとしても身長差が目線を合わせない。俺は首を少し上に持ち上げて大槻を見た。やはり、大槻の目線は前を向いている。 「俺の世話も見てよ。」
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