第9章 どうせもう逃げられない

3/11
前へ
/22ページ
次へ
「お前は半分嫌々で俺のために我慢してくれてるのかも、と思ってたから。そんな、集団でやったことあるやつに外で声かけて触らせるくらいあれが気に入ってるんならさ。なりふり構わず逆ナンしなくても、喜んでだりあの相手したいってやつ山ほどいるから…。一石二鳥だなと思って。お前も、気持ちよかっただろ?あいつにバイブやらローターやらで責められて」 「あんなの。…嫌だ、わたし。普通の方がいいよ、全然」 顔色を変えて真剣に言い張ったけど彼は聞く耳を持たない。 「いや、俺動画見たから。縛られて道具使われて、潮吹きながらびくびく何度もいってたじゃん。もっと早く言えばよかったのに。ちょっと過激なくらいの方が本当は嬉しいんだ、って」 それ以降集団でのプレイの中にそれが導入されたのは言うまでもない。わたしは本気で堂島侑を恨んだ。 自分の完全にプライベートな空間に赤の他人に不定期に入り込まれて、性の相手をすることを強要されるとどんなに精神にダメージが来るか。っていうのは、多分経験してみないとわからないと思う。そのくらいに、下手すると集団での乱交が始まったとき以上に心も身体もきついと感じた。 あれはある意味非現実的出来事すぎて。普通の日常の時間の中にいるときは実感が遠くて、もしかしたらわたしの想像した変な夢の話かも。と無理やり思い込めないこともなかった。だけど、今回のそれは。あまりに普段の生活と地続き過ぎる。 陽くんは一体何がしたいんだろう。 何が目的でわたしを、沢山の男に与えるんだろう。薄々感じてはいたけど、わたしに飽きたから?もう前ほど愛してない、興奮しないから? 長く付き合い過ぎて性的に刺激を受けなくなって、何となく行為が間遠になるのは仕方ない。普通にどんなカップルでもよくあることだと思う。 でも、だからってこんなこと。わたしを沢山の人にやらせて、それを見て興奮を呼び覚ますためだけにここまでするの?そんな必要ある? 愛情がなくなったんなら悲しいけど、普通に振って捨ててくれればよかったのに。この町で一番人望のある特別なリーダー的存在の男の人に見放されて捨てられて、みんなにそれが周知の話となってひそひそ陰で同情される。それももちろんきついかもだけど。 こんな風に出涸らしになるほど搾り尽くすまでしなくても。…それとも、本当に。本人がその口で断言してる通り、わたしが必要? お前が協力してくれてるおかげでみんなが俺を支えてくれるよ。あんな綺麗な彼女との幸せを分けてくれるほど仲間を大切にしてるやつなんだ。ってすごく評価されてる。 折に触れてそう言ってありがとう、頑張ったね。と感謝の言葉を囁き優しくわたしを抱きしめる。集団でしたときは必ず最後にわたしを熱っぽく抱いて昇り詰め、そのあとは誰にも触れさせない。滅多にないけどたまにそういう姿を見ると。もう全然気持ちが残ってないっていうことはないよね。この人はやっぱりわたしがいなきゃ駄目なんだよねと改めて胸がほっと火が灯ったように熱くなる。 だいいち単に要らなくなったんなら、こんな手間かけずに普通に別れるだけで済む。あえてそれをしないってことは。多分ほんとに、彼にはまだわたしが必要なんだ。 そんな風に思いが至ると、やっぱりもう少し我慢してみよう。と気持ちが鈍る。 ここを逃げ出してもどこにもどうせ当てなんかない。お給料は少しずつ貯まってきてるけど、都会で部屋を借りたりしたらきっとあっという間に食い潰してしまう。そうなったらもう不特定な男相手の風俗の仕事まであと一歩だ。 そのくらいなら。させられることは同じでも、背後で陽くんが目を光らせて守ってくれてる場での行為の方が。危険度が全然ましに思える。ここでは彼に逆らってまでわたしに危害を加えようなんて考える人はまずいないし。 そうやって一年ほどの間、ずっと迷いを抱えながらも彼の指示に従って沢山の男の前に身体を開いた。堂島侑の他にもぼんやりと覚えのある男の子が何人か含まれてることに、特に一人ずつ相手をするようになってから改めて気づいたけど全力で知らないふりをした。中学のときや高校のときの話を振ってくるやつがいても、そういう話題には曖昧に濁してろくに返事をしないでやり過ごした。 中学のときの友人の顔がいくつか、ぼんやりと記憶の裾を揺らすことがあった。わたしにとっては数少ない、大事な懐かしい友達。 幸いなことに今はみんな、この町を出て遠くにいる。こんな不快な噂が間違ってもその耳に届くことはない、だろう。 あの人たちには、ずるずると好きな相手の言うままになってしまったこんな情けないわたしを知られたくない。二度と会えないだろうけど、それでもよかった。 どんどん汚れて墜ちていく一方のわたしを目の当たりにされて。軽蔑の眼差しを向けられるより。 うゆちゃんや奥山くんみたいな人たちには、こんな汚い世界があるなんて。絶対に想像の外だろうなぁ。理解できない、と顔をしかめるか気持ち悪いと一刀両断されて終わりそう。 二人とも好きでもない人とそんなことをするなんて、いくら頼まれてもどんなに頭を下げられても絶対に受けないだろうな。必然性がわからない、ときっときっぱり断れる。だって、本当に理解不能だし。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加