第9章 どうせもう逃げられない

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第9章 どうせもう逃げられない

彼の反応を半ば恐れて、びくびくしながらも思いきってその日の出来事を報告したわたしを陽くんはさほど厳しく咎めなかった。 どちらかというとされたことを根掘り葉掘り詳しく尋ねるより、当人の名前をわたしが覚えてないと知るとそいつが所属してる会社はどこかとか、高校の同級生?先輩か後輩じゃなくて?とかとにかくその男にまつわる情報を細かく知りたがった。 多分本人を特定して、直に問いただした方がいいと判断したんだろう。どのみちそいつにはっきりと注意しなきゃならないわけだし。 もちろん彼が直に当たったときにあの男がでもでもだって、と反論しつつわたしがどんなに淫乱に反応したか言いつけられる可能性はある。だけど今の時点でそこを咎めて来ないってことは、陽くんはそれを問題の主眼だとは考えてはいない証拠にも思えてわたしは少しほっとした。 どうやらわたしの訴えを認めて対応はしてくれそうだ。そうだよね、自分の見てないところで彼女が侮辱されて脅かされたんだもん。彼が始めたことがその原因でもあるんだし、さすがにここは守るために動いてくれるよね。 そう考えて、あとは彼に任せよう。と割り切ってわたしはその事件の記憶を頭の外へと追いやった。 そんなことがあってしばらく経った、ある日のこと。 今週の週末、久々にお前の部屋に行くよ。と彼から連絡が入った。 最近はデートするにしても外で食事して軽く飲んで終わり。とか、午後だけちょっとドライブして解散。とかそんな程度で、それもだいぶ頻度が下がってる。 セックスも『あれ』のとき以外ほとんどなし、当然お泊りなんてずっとないから。お互いの部屋も独立した最初の頃以来行き来がない(余談だけど、彼は実家では離れに住んでいたので。高校のときにはそこでいつも済ませていた)。だから家に来てくれるなんて久しぶり。と声を弾ませて電話越しに重ねて尋ねる。 「泊まってく?だったら。わたし、久しぶりに何か作るよ。何がいい?」 電話の向こうの声はいつも通り落ち着き払っていて変わりがない。 『いや、夕食の支度は気にしなくていい。何か持っていくよ。お前はただ約束の時間に部屋で待っててくれればいいから』 どういうことだろう。何かのサプライズとか?別にわたしの誕生日でも何でもないのに。 そう疑問に思いながらも、どっちにしろわたしは彼の言うことに従う以外の選択肢の持ち合わせがない。付き合い初めから今までずっとそうだった。 それでせめてもとせっせと部屋の掃除をし、朝からそわそわとシャワーを浴びてちょっと可愛らしい服を選んで着てちんまりとインターフォンが鳴るのを待つ。 彼が家賃を持ってくれているこのアパートは、狭いながらもきちんとカメラのついたオートロックだ。そこに他ならない陽くんの顔を見出して、わたしは弾んだ声で呼びかけた。 「今開けるね。上がってきて、すぐに」 インターフォンを切ってからあれ、そういえば彼ってそもそもここの鍵を持ってたような。部屋の鍵があればアパートの出入り口も普通に通れるし、どうしてわざわざ押して知らせたのかな?あんまり久しぶりで開け方忘れちゃったのかな、とか考えながら今度はドアのチャイムが鳴らされて急いで戸口に駆け寄る。 「…だりあ」 開いたドアから入ってきて抱きしめてくれるその声がいつになく優しい。これは、やっぱり今日は何か特別なことがありそう。と頭の中で考えながらうっとりとその胸に頬を寄せる。 彼がいきなりわたしを抱え上げて、リビングへと運んだ。 そのままカーペットに身体を横たえ、上からのしかってくる。情熱的にキスして舌を絡めてきながら早くも身体を弄り始めた。…うっとりと応えながら目まぐるしく脳内で考えを巡らせる。 これは。本格的に今日はいつもと違うな。やっぱり、いよいよプロポーズ。…とか? この前のエレベーターの件があったから。これまで良かれと思ってあれをやってきたけど、結局お前を危険に晒してるんだとわかって反省したよ。これからはもうあんなことは全部なし、二度としないし幸せにするから。俺たち、一緒になろう。…なんて。 下着を下ろされてそこを指先で愛撫され、切なく身をくねらせる。こんな身体になっちゃって恥ずかしいけど。今日は感じちゃってもいいんだ。…だって、好きな人と二人だもん。 胸をはだけられて乳首を弄って吸われる。剥き出しの下半身を弾ませて、脚を開いて無言でねだった。…陽くんになら。何されてもいいの。早く、もっと。…触って…。 玄関の方からがちゃり、と音がした意味が理解できなくて。一瞬、反応が遅れた。 彼が上からわたしを押さえつける手に急に力がこもる。リビングの入り口に顔を出した人を呆然と見上げながら、どうして。と一気に頭が真っ白になった。 「…よ。いいとこだね、お二人さん」 「お前こそ。…いい感じだよ。いよいよこれからってとこ。…ほら」 彼がわたしの両脚を思いきり開いて侑くんに見せつける。慌てて閉じようとしたけど全然力では敵わない。 「ほんとだ。…陽にされるとやっぱ、反応が違うね。ちょっとされただけでこんなにここ、赤く腫らして。こっちももうぱっかり開いて、ひくひく誘ってるじゃん…」
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