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「別におもちゃの銃でも構わない。弾に釣り糸か何かを括り付けて、犯行後に303号室から301号室に飛ばして窓の手すりに引っ掛ける。失敗したら糸を手繰り寄せればもう一度できる。303号室側は蝶々結びのように強く引くとほどけるようにして手すりに結び付ける。
あとは鍵を掛けて303号室を出て、301号室の右側の部屋に隠れて君が通勤してくるのを待ち、タイミングよく鍵を釣り糸に通して滑らせ303号室に着いたところで強く引いて釣り糸を外して鍵を落とす」
子供のイタズラみたいなトリックだ。そんなことで私は犯人にされるところだったのか。
「それから犯行の証拠。証拠として一番有力なのは凶器なんだが、この犯人は自殺に見せかけようとしていたのだから首を絞めた縄と首を吊った縄は同じものだろう。したがって犯人は凶器を持っていない。ちなみに警察が首を絞められた跡と言っているのはきっと吉川線のことだが、それじゃ犯人特定の証拠にはならない。
でも君がこの部屋に来たとき、これは証拠になるんじゃないかと思ったものがあるんだ。何だと思う?」
「クイズか?もったいぶらずに教えてくれ」
満足そうにふふふと笑って話を続けた。
「それは靴下に着いたココアの粉さ。もちろんココア自体はどこにでもあるが、落ちたココアの粉を片付けずにいる住人はきっと普段から部屋の掃除をしていない」
確かに散らかった部屋だったのは間違いない。
「そういう部屋にはココア以外にもいろんなゴミが落ちたままになっているのさ。そしてその部屋の中で揉み合いの末に犯行を成し遂げて鍵のトリックまで用意した犯人の靴下には間違いなくその汚れや"毛髪"が着いている。その靴下は洗ってしまうかも知れないが部屋から部屋へ移動するときに汚れたままの靴下で靴を履かなくてはいけない。つまり、犯人の靴に被害者の毛髪が残っているはずさ」
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