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鍵を拾ってきたが住人が見つからない旨を男性に伝え、鍵を渡しておさらばしようとしたが、このじいさんがなかなか鍵を受け取らなかった。
「よくわからないものを渡されても困るなあ。それなら落ちてた場所に置いときゃいいんじゃないのか。あん?」
じいさんは随分困惑した様子で話が長引いていると、部屋の奥からスーツを着た中年の女性がやってきた。
スーツを着ているせいもあるかもしれないがそのじいさんとは雰囲気が違っている。何か仕事で来ていたのだろうか。
「303号室だと橋本さんの部屋ね。お仕事が夜勤で不規則な生活しているらしいから、もしかしたら寝てるのかもしれないわね。いっそのこと交番に行って警察に渡したらいいんじゃないの。駅前にあったんじゃない?」
どうやらこのおばさんも鍵を受け取ってくれないようだ。
正直これから警察に行く時間もないし落ちていた場所にまた置いておこうかと思っているときに303号室の方から扉を開ける音がした。見るとちょうど扉が閉まるところだった。私は慌てて303号室へ行き、扉をノックして「すみません」と声を掛けた。
すぐに女性が扉を開けた。
「なんですか?」
と、ぶっきらぼうな調子で頬がこけて痩せた感じの女性が顔を出した。目の下にくまができている。
鍵を見せると、
「ヒロトのだ」
と、鍵を私の手からすぐに奪い取った。部屋の中に向かって「ヒロトー」と、中にいるであろう人に向かって名前を呼んだ。
しかし返事はなく、女性は返事がないことを不思議に思いながら私のことは放っておいて部屋の中にその人を探しに行った。
――ほんの数秒後のことだと思う。その女性の悲鳴が聞こえた。
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